きっともう好きじゃない。
土曜日の夜、まおちゃんはなかなか腰を上げない。
それどころか、放っていたらこのままわたしのベッドで眠ってしまいそう。
まおちゃんの明日の予定だとか、何も知らない。
彼女がいる。友だちもたぶん少なくない。
交友関係も恋愛事情もどうだっていい。
ただ、まおちゃんは明日学校が休みで、早く眠る必要も急ぐ課題もなくて、それならわたしは文句を言えない。
言いたくないし、言えないんだけど。
寝てしまいそうな雰囲気といったって、まおちゃんは泊まるなら薫の部屋に行くし、よほど動きたくないわけじゃなかったら自分の家に戻る。
まおちゃんの重さに沈んだベッドから立ち上がって、パソコンを起動させようとすると、声がかかる。
「触んな、それ」
うつ伏せたまま上体を起こして、まおちゃんがじいっとわたしを見る。
見つめ合うたびにドキドキしてしまうような新鮮さがないことが救いだと思う。
まおちゃんへの気持ちを自覚するよりも前から見慣れている顔。
あとは送信するだけの課題は、週明けでもいいか。
電源に置いた指先を離すと、途端に興味を失ったようにスマホを触るから、わたしもベッドを背に床に座ってソシャゲのログイン巡回を始める。
パソコンを触るなと言うのなら、代わりに構ってくれたっていいのに。
ほぼログインしかしていないゲームを次々に開いていく。
わたしとまおちゃんの息遣い、それから、指の腹が画面を叩く微かな音。
心地良かった。音がないことが、まおちゃんの音だけが聞こえることが。
それなのに、平穏は簡単に劈かれた。
やたらと大きな音に設定された、メッセージアプリの通知。
友だちからの何気ないメッセージかもしれない。
だけど、彼女からのメッセージの可能性だってある。
通知音に反応した体を装ってまおちゃんのスマホを横目に見る。
まおちゃんは隠そうともせずに、ん? と小首を傾げながら、返信を打ち込んでいく。
やり取りよりも先に相手の名前が目についた。
明らかに女の子の名前。
「……は、るひ。それ、彼女?」
「うん」
ひらがなの名前なのか、漢字で書くけどひらがなで登録しているのかはわからない。
というか、そんなこと、どうだっていいんだけど。
彼女、はるひっていうんだ。
こんな時間に、メッセージのやり取り、するんだ。
別に何もおかしくないし、動揺したら変だし。
口を開いたら変なことを口走りそうで、まおちゃんに顔を見られたら色んなことが見透かされてしまいそうで、そっと自分のスマホに視線を戻す。