きっともう好きじゃない。
一通りゲームのログインは済んだのか、帰り道で薫はわたしにスマホを返した。
来る道では乗り気でないのに連れ出したせいで不機嫌だったのに、今はなぜか鼻歌を歌い出しそうなほど上機嫌で、その理由はあまり考えなくてもわかった。
「告白された?」
「うん。された。そんで、俺もした」
「へえ、そう。……え?」
バレンタインって便利な日で、皆まで言わずに濁すこともできる。
薫はちゃんと告白されたんだ、へえって返したところで、ようやく最後に付け加えるように言った言葉が追いついた。
「……おめでとう」
「なんか不服そうだな」
「そんなんじゃないけど……信じられなくて。弟に彼女が……」
考えただけで、空に向かって叫びたくなる。
驚きとほんの少しの寂しさに、落ちていた小石を蹴っ飛ばす。
側溝に落ちた小石がポチャンと音を立てた。
いつもは枯れている側溝に水が溜まっているということは、明日はきっと雨が降る。
何でなのかはわからないけど、昔からそうだった。
「ん。そう、カノジョ」
言い慣れない言葉を口にしたせいか、薫の声は吃ってるし上擦ってる。
タートルネックのカットソーだからとマフラーを巻いていないから顔を埋めようにも逃げ場がなく、横髪を手で頬にかける仕草が可愛い。
今度会わせてねって言ったら、そのうちなって言う。
いつもなら、第一声は『は?』とか『嫌だ』なのに。
それだけ浮かれてるってことなんだと思う。
何となくわたしも嬉しくて、地面スレスレを掠めるように歩いていた足をわずかに高く上げてしまう。
「で、俺も姉ちゃんに聞きたいことあるんだけど」
「ぎく」
擬音が口から出るくらいの余裕はあるよ。
だって、薫が見逃してくれるわけがないから。
絶対にこの帰り道で聞かれると思ってた。
彼女のことでチャラ、にはならないよね、やっぱり。