きっともう好きじゃない。


「あれ、眞央に渡すんじゃなかったの?」


あれ、は篠田さんに渡したチョコレートのことだ。

どう誤魔化しても意味はなさそうで、考えている間すら薫の視線が痛い。

わたしは首を深く擡げて、アスファルトの地面に声を落とした。

一緒に、まおちゃんへの気持ちも落ちてしまえばいいのに。


まおちゃん、まおちゃん、まおちゃん。

その名前を零して落としていくだけで、恋心まで落ちて転がって、小石みたいに側溝に落ちるのなら、わたしはいくらだってまおちゃんを呼ぶ。


「そうだよ。あれはまおちゃんに買った分。だけど、渡せないから篠田さんにあげたの」


「渡せばいいじゃん。会いにくいなら、俺が届けたのに」


今更そんなこと言わないでほしい。

渡したかった、渡すはずだった。

篠田さんの手に置いた瞬間だって、本当は指先を離すのが惜しかった。


まおちゃんの名前を口にして、想いまでも零れてしまうというのなら。

本当は、もう2度と、まおちゃんの名前を呼びたくないと思うほど。

まおちゃんのことが好きだよ。


「いいの。かおる」


渡せなくてよかった、とも思ってる。嘘じゃないよ。

惜しかったけど、今頃電車に揺られている篠田さんにやっぱり返してと言う気はないし、追いかけるつもりもない。


所詮、手から離れてしまったものだ。

遠くへ行ってしまえ。

そうしてもう、わたしの記憶からも消えてしまえばいい。

今もまだ鮮明に思い出せる2羽の鳥と葉っぱとお花のチョコレート。

可愛いからなんて理由で選ばなきゃよかったな。

きっと、ずっと忘れられない。


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