きっともう好きじゃない。
家に帰って食事を終えたあと、わたしは先に部屋に戻った。
薫はバレンタイン限定のマップがあるとかで、あとから部屋に来ると言っていたけど、それってどれくらいかかるんだろう。
充電器に繋ごうとしたスマホをつい開いてしまって、気付けば数十分。
机の上に置いたマフィンの袋の横には薫に渡すチョコレートとは別にお父さんへのものもあったことを思い出す。
お母さんからのチョコレートは朝受け取っているはずで、毎年あるはずのわたしからのチョコレートがなくって落ち込んでいるかもしれない。
そういえばご飯を食べているとき、ちらちらとこちらを見ていたような気がする。
6個入りのお酒の入ったチョコレートを持ってリビングに向かう。
いちばんに目に付いたのは、バラエティ番組を映すテレビだ。
「かおるは?」
テレビゲームが済めば来ると言っていたのに。
両親のどちらにもなく聞きながらもソファを覗き込む。
そこに薫はいなくて、思わず首を傾げた。
「薫なら眞央のところに行ったぞ」
出た。お父さんの『まぁお』
久しぶりに聞いたけど、やっぱり耳によく残る独特な発声。
「なんで、まおちゃんのとこ?」
「ふたりが出てる間に来たのよ。食べ終わったらでいいから薫を寄越してって。和華にはバレないようにって言うから協力しちゃったけど……あっ」
ハッとして口を押さえるお母さんのおかげで、事情はわかった。
わたわたとひとりで慌てるお母さんを尻目に、お父さんにチョコレートの箱を渡す。
「お、ありがとうな」
「ごめんね、遅くなって。もらえないって思った?」
「少し思った! もう卒業かってしみじみしてたところでな」
嬉しそうに顔を綻ばせるお父さんは早速包装を破き始めるから、お母さんがお茶の用意をする。
わたしにも飲んでいくかって聞かれたけど、断って部屋に戻った。
一直線に充電器を挿してベッドに放っていたスマホに向かう。
部屋に戻るまでのわずかな間に、ふたつ考えたことがある。
メッセージを送るか、電話をかけるか。
まおちゃんにかけるんじゃない。
鳴るのは間違いなくまおちゃんのスマホだけど、薫に用がある。
最初に出るのが薫とは限らないのが問題だけど、でも着信がわたしからならまおちゃんはすぐ薫に渡してくれるはず。
何してるの? って聞くだけ。
帰ってきた薫に聞いたらきっと上手く躱されてしまうから、逃げられない状況で問いただす。