きっともう好きじゃない。
躊躇う気持ちと、そんな悠長なことしていられないって急く気持ちがせめぎ合って、勢いで着信ボタンを押した。
耳には当てずにベッドに座る膝の上に置いてじっと通話中に切り替わるのを待つけど、そのときは一向に訪れない。
コール音とともに跳ね上がっていった心拍も平常に戻って、しばらくすると応答無しの文字を表示して切れた。
懲りずにもう一度、二度と繰り返したところで、諦めてスマホを放る。
出ない、というのは予想していなかった。
ドラマの続きを、といいつつスマホを家に忘れて来たり、逆に忘れて帰ったりするまおちゃんのことだから、手元に置いていないのかもしれない。
これで困るのは、あとで気付いたときに折り返しがくること。
三度もかけたら緊急性を疑われるかもしれない。
そうなったときに、こちらが出ないというのはマズい気がする。
今になって自分の行動を省みながら呻いていると、突然部屋のドアが開いた。
「うわ」
うわってなに。
まるで、いつかの、というか割と最近の車の中でのやり取りとまるきり同じだ。
あのときは、最初わたしに気づいていなかったけど。
「何してんの、姉ちゃん」
「かおるー……何分前にまおちゃんと別れた?」
「いや、知ってるんかよ。ついさっきだけど? 眞央のスマホに電話かかってきて……出ないのかっつったらいいって言うから、俺がいると出にくいんかなと思って帰ってきた」
「え!? 困る、ちょっと、どうしよう」
やっぱり気付いてたんじゃん。
うわ、最悪、どうしよう。
って考えてる間にもまおちゃんから電話がかかってきた。
「かおる、ちょっとお願いが……」
「あーあ、しーらね」
呆れた風に言うけど、顔はちょっと笑ってる。
マフィンとチョコレートを交互に指差しながら手を合わせるけど、またあとで来るわ、と言って出て行ってしまった。
やたらと長いコールに耳を塞ぎたくなる。
ふと思いついて音量をゼロにしたら、今度はものすごい勢いで震え始めた。
そうだよね。そういう設定にしてあるもの。
画面を不用意に触って通話に繋がってしまったらと思うと何も手出しができない。
不在着信、とならないと困る。
わたしが切断したことがバレたら、まおちゃんは家に来るかもしれない。
とにかく、出なきゃいけないことはわかってる。
あとでいくらでも自分を責めていいから、今は最善の行動を。
心の中でわたしがわたしに命令する。
もうよくわからないけど、虚空に向かって敬礼のポーズを取ってから、途切れてしまう前にまおちゃんへの通話を繋げる。