きっともう好きじゃない。
◇
火曜日、朝から出て行ったのは薫だけで、両親とわたしは家にいたのだけど、その両親も午後3時を過ぎた頃に出かけて行った。
見送りに玄関に出たら、聞いていた通りまおちゃんの両親と一緒に。
ドアを閉じ切った瞬間から踵を返してリビングに逆戻り。
まおちゃんと薫は直接会ってやり取りをしていたようで、具体的に何を買ってくるのかもいつ頃になるのかも聞かされていない。
ソファに寝転がると、ちょうど頭を乗せたクッションの下に何かがある。
かたい感触、形は長方形。
引っ張り出してみると、薫の携帯ゲーム機だった。
ソフトがRPGなら触らずに避けておこうと思ったけど、耐久プレイを掲げたパズルゲーム。
わたしがスマホでたまにしているものと操作がよく似ていて、薫がトイレに行くときなんかに任されることもあるやつだ。
ソファで眠れそうにはないし、時計と見つめ合っていたら気が遠くなるかおかしくなってしまいそうだから、ありがたく拝借する。
うつ伏せでクッションに肘を置く万全の体勢。
いざ、と電源ボタンを押して軽快な起動音が鳴ったと同時に、玄関の方からも音が聞こえた、気がした。
「……気のせい?」
家に誰かがいるとき、薫は鍵を持ち歩かない。
鍵は開いているときと閉まっているときがあって、お母さんが家にいる間はほとんど開けているんだけど、さっきふたりを見送ったあとにわたしは鍵までしっかりとかけた。
音が響いたのは一度きりで、気のせいと判断したところでボタンを押したときだった。
インターホンの音が一度も鳴り終わらないうちに連打されて、リビングにこだまする。
それはもう耳が痛くなるくらい。
ただでさえ、家のインターホンの音量は大きく設定してある。
理由は、お母さんがいなくてわたしだけが家にいるとき、来客に気付くように、とわたしのためなのかわたしのせいなのかわからない。
来客ってつまり、9割薫のことを指すんだけど。
「うるっさい!」
張ったつもりの声もかき消されるほど。
急いでゲーム機を放って玄関に向かう。
ドアスコープを覗くまでもない。
このドアの向こうにいるのは絶対に薫だから。
そうだよね、たぶん。ほぼ絶対。
違ったら、どうしよう。
鍵を開けてこちらからドアを押し開いたあとでそれを考えた。
心配する必要はもちろんなくて、そこにいたのは薫とまおちゃん。
「お、かえり……」
うるさいって開口一番に言うつもりが、まおちゃんの姿が視線の先にあったせいで、すごく呆けた声が出た。
薫はインターホンのボタンに指を置いたままでいたかと思うと、どう考えても余計な一発を鳴らした。