きっともう好きじゃない。


黙々とゲームをしていたけど、割と伸びた記録が途絶えてしまうと一気にやる気がなくなって、きっと特大サイズに整形されているコロッケが油に踊る音を聞きながら微睡む。

そこにいるのがお母さんではなくて、薫だけでもなくて、まおちゃんがいると思うと眠るには至らずにずっとぼんやりしてた。

そのうちに窓の外が暗くなってきて、油の音が止んだから、カーテンをぜんぶ閉めて回る。


もう見てもいいよね。

ずっと、こっそり覗くこともせず、ときどき聞こえる不安な音も聞き流していたんだから。


「……すごい」


綺麗にピラミッド型に重ねられたコロッケのお皿がふたつ。

醤油だけが使いかけのもので、ウスターソース、とんかつソースは新品を買ってきたらしい。


まさかぜんぶ食べ切れるはずもないけど、この山を薫とまおちゃんでどれくらい切り崩せるんだろう。

天井に向かって立ち上る煙にすら食欲をそそられて、窓辺からふらりとダイニングテーブルに近寄る。

よく見ると、コロッケはそれぞれ形が違った。


衣が固まっているのと、やたらと大きくて平べったいのは薫。

あとコロコロと小さくて丸っこいのもたぶんそう。

綺麗な俵型と小判型は、きっとまおちゃん。


コロッと丸いのは竹串にでも刺した方が食べやすいんじゃないかな。

作ってもいないやつが口出すなって言われちゃいそうだけど。


「つまみ食いするなよ」


ちょうど、その丸っこいのに伸ばしかけた手を慌てて引っ込める。

押さえられかけた現場からそそくさと離れると、薫はダイニングテーブルの空いたスペースに鍋敷きをぺそっと投げた。


その後ろから鍋を持ったまおちゃんが来て、鍋敷きの上に置く。

コロッケのよりも太く勢いのある湯気がもわっと天井にぶつかっていく。


「毛穴開くこれ」


「女子かよ」


熱気のせいで少しだけ顔を湿らせたまおちゃんが言うと、すかさず薫がツッコミを入れて笑った。

ふたりの間で巻き起こる笑いにも、わたしはついていけない。

疎外感ってこういうことを言うんだろうな。

寂しいけど、まおちゃんとの間に薫がいてくれてよかった。


< 112 / 137 >

この作品をシェア

pagetop