きっともう好きじゃない。
鍋の中までコロッケだったらどうしようって思ったけど、ガラのスープで鶏そぼろが沈んでいる。
まおちゃんがお椀を3つとおたまを持って鍋を覗く。
そうして、わたしに見せつけるように中身をかき回した。
「ふおお……」
上澄みが弾けて散らばって、そぼろが表面をくるくると泳ぐ様に目を輝かせていると、頭の上に笑い声が降ってくる。
顔を逸らして隠しきれない笑いを零すまおちゃんに、わたしもちょっとだけ笑った。
おからはお腹にたまるのに容赦なくご飯をてんこ盛りにするふたりを見ているだけで満足してしまわないように、わたしもいつもの半分量のご飯をよそう。
待ちきれずにそわそわと貧乏揺すりが止まらない薫の隣に座ると、いつもお父さんが座る席についたまおちゃんが両手を合わせる。
「いただきます」
ほとんど3人同時に言って、薫とまおちゃんはすぐにコロッケに箸を伸ばした。
ふたりとも、俵型の方に。
「かおる、自分が作った方食べなよ」
「はあ?」
同じタイミングでコロッケを引き寄せて口元に運んだのに、わたしが話しかけたからか薫はまおちゃんに遅れをとった。
サクッと心地好い衣の音を、まおちゃんにワンテンポ遅れて薫が発する。
「これ、俺だけど」
「え……?」
「こ、れ! 俺が作ったんだよ!」
そんなにムキにならなくても。
ふんっと鼻息を荒くした薫に構わずに、また俵方を取ろうとするまおちゃんに制止が入る。
手で制されて不服そうなまおちゃんが助けを求めるようにわたしを見るけど、こちらも手一杯なんだよ、今。
なんだ、つまり、わたしの予想は真反対だったってことか。
そういえば、薫は手先が器用だった。
料理といえば、以前の生姜焼きと味噌焼きの印象が強くて、何となくまおちゃんの方が上手だと思ってたけど、こういう成形とはまた違う。
「眞央、おまえはこのヒラメを食え」
びしっと薫が箸を持たない方の指をさしたのは、わたしが勘違いしていた本当はまおちゃんが作ったコロッケの山。
ヒラメと言われたら、たしかに見えないこともない。
ただ、言っておいて笑いが堪えられないのなら、できれば巻き込まないでほしかった。