きっともう好きじゃない。
「あとで食べるから」
「あとじゃねえよ! おい、コラ」
薫が必死にガードしていた手をまおちゃんは空いた手で握りしめた。
袖を捲り上げた薫の腕に鳥肌が立ったのは気のせいじゃない。
そうして、今度は小判型のコロッケをさっくりと音を立てて食べるまおちゃん。
ちらっと横を見ると、薫の額には青筋が浮かんでる。
パッと瞬きをしたら消えたから、わたしの見間違いかも。
「おまえの明日の弁当とおばさんたちに持って帰る分を綺麗な方にしたいならこっちを食えって言ってんだよ」
どこからか取り出したラップを自分が作ったコロッケの皿にふわりとかけて、薫が満足げに鼻を高くする横で、わたしはラップの端を捲りあげて俵型をひとついただく。
「姉ちゃん?」
「ほら、わたしまだひとつも食べてないし」
それで怒られるのはちょっと納得がいかない。
あとはまおちゃんが作った方を食べたらいいんでしょう。
「美味しい」
刻みネギと玉ねぎとひき肉と、それから惜しみなく使われたおから。
半分はソースをちょちょっとつけていただくと、いくらでも食べられそうな気になる。
満更でもなさそうな顔の薫はそれきり黙って黙々とコロッケと白米を交互に食べてはスープを啜る。
わたしはコロッケはほどほどにスープを飲んでいたのだけど、おかわりを注ごうと身を乗り出したとき、まおちゃんサイドのコロッケの山がごっそりと削られていることに気付いた。
薫も相当ペースははやいけど、まおちゃんもすごい。
先に食べ終わったわたしはあと2杯分ほど残ったスープを温め直してテーブルに戻る。
ふたりに手を差し出すと、言わずとも意図が伝わったようで、両手にお椀が乗っかる。
ちょうどふたり分に分けたスープを手渡すと、最初よりも随分とゆっくりになった箸を薫が一旦置いた。
「腹重てえ……」
顔だけ見るとまだまだ余裕綽々に見えるけど、実際食べた量はわたしの何倍もある。
見事に空になった皿を見ていると、作ったのはわたしじゃないけどすごく気分がいい。
薫もまおちゃんも服に衣がボロボロ落ちていて、口元は油でテッカテカ。
そぼろひとつまでしっかりと飲み切ったふたりが休んでいる間に空いた食器を片付ける。
「いいよー、姉ちゃん。そのままにしといて」
「ううん、これくらいするよ」
飛び散った玉ねぎとか、捏ねたあとのボウルとか、ぜんぶ放られていたけど、まあ気にしない。
ぜんぶ洗い終える頃には薫もまおちゃんも立ち上がれるくらいにはなったらしい。
さっきまで、動いたら崩れ落ちるって言ってたから。