きっともう好きじゃない。
まおちゃんはコロッケをタッパーに詰めて、薫はお母さんとお父さんの分を別の小皿に移す。
黙って取りかかり始めるから、何事かと思った。
なぜか黙ったまま行われるコロッケを掴んでは詰めての単調な作業が面白くて、1枚だけ写真を撮る。
ふたりとも下を向いているけど、まおちゃんの方は伏し目っぽくなっていて、こんな顔を部屋で見たのも随分前のことのように思う。
タッパーだけが乗ったダイニングテーブルを囲って3人で棒立ちしていると、まおちゃんがいちばんに切り出す。
「じゃ、俺帰るな。今度直接伝えるけど、おばさん達にお礼言っといて」
たぶん、わたしも薫もまおちゃんも、同じタイミングで何を言いかけた。
まおちゃんのがいちばん早かったけど、それを言われたあとではわたしも薫も口を噤むしかない。
薫は何を言いたかったんだろうって横顔を伺い観るけど、何も読み取れない。
タッパーを抱えてリビングを出ていくまおちゃんを追いかけようか迷った。
壁時計はまだ7時前を指していて、お互いの両親が帰るまではまだ時間がありすぎる。
ここにいたらいいって言いたいけど、まおちゃんははやく帰りたいのかも。
わたしは部屋に戻るけど薫とゲームでもしたら、って言うのも何だかよそよそしい。
やっぱり引き止めないほうがいい気がして、不自然にまおちゃんに伸びたがった手を下ろす。
見送りは任せようと、まおちゃんを追いかける薫を一瞬だけ見たとき、胸がざわついた。
その横顔が、さっきまでのゆったりとした時間の余韻にはそぐわないほど、何かを決意したような真剣なものだったから。
「かおる……?」
待って。
言葉が続かなかったことを、こんなに悔やむことはないと思う。
薫はわたしを見て、言った。
「……ごめん、姉ちゃん」
低く掠れた声だった。
廊下に出ていった薫と、閉まるドア。
たった1枚の隔たりの向こうから、何かを、誰かを強く壁に押し付けたような音と、小さな唸り声が聞こえた。