きっともう好きじゃない。
「っ、でも……陽日さんは学校の近くに住んでるって」
「寮があるんだよ。忍もそこにいる」
「なんで、かおるがユマちゃんのこと知ってるの?」
「そりゃあ、こいつが告白されてるときにそばにいたから」
「さっきの、偶然ってなんのこと?」
「初めて会ったとき、俺と西野さんだけ待ち合い室の外で話したろ」
ぜんぶ、答えたのは薫。
話が一旦途切れたとき、まおちゃんの深いため息がわたしたちを3等分にした。
薫の後ろにわたしがつくことも、わたしと薫でまおちゃんに向かい合うことも許されないような空気に肌がひりついた。
「今更、好きだのなんだのって言うけど」
一切動かなかったまおちゃんの手がわたしに伸びる。
薫が手を伸ばすのも見えたけど、間に合わずに頬を撫でられる。
薄い皮のようなものを感じたのは、まおちゃんの指に血の膜がついていたからだ。
頬に埋まる指先の爪が、皮膚を引っ掻く。
かすかな痛みに顔を顰めると、まおちゃんはわたしと視線を合わせてきた。
「和華のワガママに付き合ってられないんだよ」
「まおちゃん、」
「好きでいたくないって言っといて、好きでいられたいって、自分勝手すぎるだろ」
返す言葉もなかった。
わたしが言ったこと、あの頃のこと、まおちゃんも忘れずに覚えてる。
篠田さんが言ってたこと、ようやく合点がいった。
わたしは、自分が言ったことをちゃんと思い出したけど。
代わりにかける言葉は見つからない。
何を言っても、塗り替えられないような気がして。
キスをされたとき、まおちゃんはわたしを気遣うようなことを口にしたから、わからなかったけど。
苦しいのはわたしじゃなくて、まおちゃんだ。
ようやく、触れられた。
真正面にあるまおちゃんの顔はひどく歪んでいる。
言葉以外でも、こんなに叫んでる。
今の今まで気付かなかったことが、ぜんぶ、見える。