きっともう好きじゃない。
「彼女とデートするの?」
「そりゃあ、たまにはな」
「電話は?」
「それもたまに」
わかんないよ。
まおちゃんのたまにの基準とわたしのたまにって違うから。
ずっと一緒にいるのに、体格も性格も価値観も変わっていく。
まおちゃんの考えていること、全然わからない。
スマホをラグの上に放って、抱えた膝に鼻先を埋める。
押し入れの戸の木目を上目遣いに睨みつけていると、肩にずっしりとした重みがのしかかる。
「なに、拗ねてんの?」
「拗ねてない」
そんな単純な感情じゃない。
もっと面倒で手もつけられないような複雑な回路を組んでる。
「まおちゃん、フられちゃえばいいのに」
これ、言い過ぎかな。
もう吸ったって取り返せないけど。
「そしたら和華に泣きつく」
「じゃあ、薫に押し付ける」
「それでもいいけど、押し付け返されるんじゃねえの」
酔ったお父さんの介抱ならお母さんも含めたわたしと薫の3人で押し付け合うかもしれないけど、まおちゃんはちょっと事情が違う。
薫はわたしがまおちゃんを好きなこと、知ってる。
まおちゃんに彼女がいることも知ってる。
薫なら、まおちゃんは引き受けるから姉ちゃんは姉ちゃんで泣いとけって言うと思う。
「そうだ、かおるがまおちゃんにお礼言っといてって。何かあったの?」
「お礼? え、わかんねえ。どれの礼だよ」
「知らない」
お礼を言われるような心当たりがいくつもあるというのもおかしな話だけど、本気でうんうんと唸り始めるから、わたしも困る。
やっぱり、薫に直接話をさせるべきだった。
もしかしたらもう自室に戻っているかもしれないけど、後で薫に聞いて、と言うと、まおちゃんはまだうんうんと唸りながら頷いた。