きっともう好きじゃない。
色褪せない恋
◇
色褪せたセピア色の思い出に色を重ねたら、どうなるんだろうって、ときどき思う。
あれから1年が過ぎて、色んなことが変わっていった。
最初は変化しないものに縋っていたけど、今では変わり行くものをこそ追いかけていないと、不安な気持ちになったりする。
それってわりと普通だからって薫に言われたのも、もう半年前のことだった。
「陽日さん! 卒業おめでとうございます」
最寄り駅まで来てくれた篠田さんと陽日さんが駅から出てくるのを見つけて、一直線にすっ飛んでいく。
ふたりにおめでとうって言うつもりが、陽日さんだけになってしまって、あれっと首を傾げる。
「和華? 俺は?」
「篠田さんも!」
「全力のついで感をありがとう」
カバンから引っこ抜いた卒業証書の筒で頭を小突かれる前に白刃取りで奪う。
その切り返しは想定していなかったのか、あっさりと両手の間に収まる筒にわたしと篠田さんで目をまん丸にする。
一瞬の間があって、空まで届くくらい大きな声で篠田さんが笑った。
それを、うるさいって叩いてくれるのは陽日さん。
このふたり、今付き合ってるんだって。
記念日は7月7日、ではなくて先月2月14日。
今年はチョコレートもらえたんですねって茶化すついでに、去年のことぜんぶ篠田さんから聞き出した。
まおちゃんが学校で調理部に混じってこっそり作ったマフィン、誰が渡しに行くかを3人でじゃんけんしたって。
負けたのが篠田さんで、交通費も自腹でここまで来たこと、忘れずに覚えているみたい。
マフィンの出処はちがったけど、まおちゃんが作ったものなんてさっさと手放したかったのは違いないなって思った。
ふたりとも同じ大学に進学して、陽日さんは陸上を続けると言っていた。
篠田さんは、そんな陽日さんのために弁当作りにでも精を出しますか、って冗談みたいに言ってたけど、もしかしたら本気なのかも。
大学は隣町にあって、篠田さんは近くのアパートを借りるけど、陽日さんはこの町の実家から通うことになってる。
だから、わたしはひとつ陽日さんにお願いをした。