きっともう好きじゃない。
「ごめんね、もうすぐ来るはずなんだけど」
スマホをちらちらと見ながら落ち着かない陽日さんと、さっきから取り返した筒でわたしの両肩と頭をポンポンポンと行ったり来たりする篠田さんの間で、わたしもソワソワしてる。
不思議と、こわいって気持ちはなかった。
まおちゃんが陽日さんとのことを『妹の罪滅ぼし』と言ったこと。
薫がわたしのあの頃の『原因』と言ったこと。
どちらもピンと来ないまま、この1年を過ごした。
同級生の姿を外で見かけると隠れてしまうし、必要以上に外には出たくないし、思い出したくもないことばかりだけど。
でも、ひとつくらいは過去の清算を自分でつけてもいいと思った。
「あっ、来た」
言って、陽日さんが手を振るのはわたしの後ろ。
びくっと肩を跳ねさせると、動きを止めていた筒までもが跳ねたみたいで、篠田さんが小さく笑う。
緊張しなくても大丈夫、って言葉の魔法を受け取って、振り向いてみる。
「ユマ!」
向こうから歩いて来る女の子。
陽日さんの姿を認めてホッとしたように見えたのも束の間、わたしと目が合うと表情を強ばらせる。
ユマちゃんは制服を着ていたけど、どこの学校のかはわからない。
紺のブレザーの下にグレーのカーディガンの襟が見える。
スカートは中学のときのよりプリーツが細かいように思う。
左胸に咲く花の校章、見たことないやつだ。
わたしがじいっと見つめていたせいか、ユマちゃんは前に出した左足を進めずに下ろすと、斜め下に視線を落とす。
その表情とか仕草がどれもこれも何かに怯えているように見えてしまって、こちらから歩み寄ることができない。
「ユマ」
陽日さんもお互いに足踏みの膠着しかけた雰囲気に気付いたのか、ユマちゃんの背中を押して連れてきてくれた。
目の前にユマちゃん、その後ろに陽日さん。
わたしの後ろには、篠田さんがいる。
傍から見たらおかしな状況だろうなって思うんだろうけど、わたしがいちばんそう感じてる。
ユマちゃんを呼んでもらった理由、実はまだはっきりとしていないから。