きっともう好きじゃない。
「えっと……この子、私の妹で。西野由麻ね」
「あ、はい。久野です」
陽日さんが由麻ちゃんの両肩に手を置いて紹介してくれるから、わたしも会釈とともに返した。
後ろにいる篠田さんから、名前は、って言われて慌てて付け足す。
「うん。知ってる」
低い声よりも、冷たい無機物的な声の方が恐ろしかった。
だけど、由麻ちゃんの声はそのどちらでもなくて。
柔らかくてふんわりとした、陽日さんに似た声だった。
よく見ると、面影から目元まで、ふたりはよく似てる。
わたしと薫はあまり似ていないと言われるし、姉弟ってそんなものだと思ってたけど。
似ている姉妹って、こんな風なんだ。
「じゃあ、あとはふたりでごゆっくり」
トン、と陽日さんが由麻ちゃんの背中を押すと、つんのめった由麻ちゃんがわたしと顔を見合わせて笑った。
まだ少し遠慮がちで控え目な笑み。
ふたりでごゆっくり、は陽日さんと篠田さんにも言えることで、適当に歩いて来ると向こうへ行った背中を見送る。
曲がり角の寸前で手を握り合うのを見て、由麻ちゃんがほうっと息をつくものだから、可愛らしいな、なんて思った。
外のベンチもいくつか空いていたし、駅の中に入ってもよかったけど、何となく壁に凭れたまま話をする。
ブレザーが汚れるかな、気になるかなって思ったけど、由麻ちゃんは平然と背中を壁に引っつけた。
今どうしてるの? って聞いたら、学校のことも教えてくれた。
バスを乗り継いで、そこから徒歩20分の通いにくい学校らしい。
同じ中学を卒業した子はいないから気楽だと言った。
「わたし、由麻ちゃんってどんな子なのかなって思ってた」
「須藤くんに告白した子だから?」
だんだんと遠慮も人見知りもなくなってきたようで、由麻ちゃんは妙に確信めいた言い方をした。
わたしは小さく唸るように悩む素振りを返す。
たしかに、きっかけはそうだ。
『隣のクラスのユマちゃん』
ぜんぶが始まったのも、ぜんぶが終わったのも、由麻ちゃんがいたから。
まおちゃんと薫はそれを随分と皮肉めいた風に捉えていたけど、聞けば聞くほど、陽日さんと由麻ちゃんに申し訳なくなった。
由麻ちゃんはまおちゃんを好きでいただけで。
陽日さんは由麻ちゃんのお姉ちゃんってだけ。