きっともう好きじゃない。


「ごめんね、久野さん」


切なげな声が痛くて、だけど、耳を塞ぎたくない。


こういうとき、何を言えばいいんだろう。

謝るのは違うと思う。

だけど、それを受け取らないと、あの頃の由麻ちゃんを救えないままだ。


たった一言だけど、あの頃のわたしの心を守ってくれた由麻ちゃんのように、わたしも守ってあげたい。

そうして、もういいよって言ってあげたい。


責めるつもりも、文句を言うつもりもなかった。

理由なんていくつも並べていなかったけど、由麻ちゃんに会ってみたいって気持ちだけで、ここまで来たから。

由麻ちゃんの心まで守ってあげられるようなこと、何かひとつでいい。


「あの、ね」


考えても考えても、決定打を持つようなこと、思いつかない。

だから、伝えてみることにした。

お互いに、噂でしか知らなかったことだから。


「わたし、まおちゃ……あ、えと、眞央のことが」


「まおちゃん、でいいよ。ずっとそう呼んでるんでしょ?」


バレた。いや、これはバレてたっていうべきなのかな。

ちょっと昔、だけど遠い昔のこと、覚えてるんだ。

恥ずかしいような変な気持ちでふにゃりと笑って、それからちゃんと顔の筋肉を引き締める。


「ずっと好きだったの」


まおちゃん本人と薫以外にはちゃんと言葉にしたことのない想いだ。

あの3人に聞かれたとき、頷いた記憶はあるけど、絶対に自分では口にしないって決めてた。


「じゃあ、両想いなんだね」


握ったままの手を軽く振られて、戸惑った。

嬉しそうな由麻ちゃんに、何て答えよう。

知る術がないのなら事実は隠しておけばいいんじゃないかって思ったけど、それだと昔の二の舞だ。


「たぶん、重なり合う瞬間っていくつもあったよ」


「え?」


「だけど、肝心なときに何も伝えられないままで……」


あの頃、まおちゃんに『もう好きでいたくない』って言ったこと、後悔してる。

だけど、あれしか選べなかったこともわかってるし、本当は言いたくなかった自分の気持ちもちゃんと下しているつもり。


好きと好きが重なり合う瞬間は、きっと何度もあった。

逃して、また巡って、それすら逃して。

もう、二度と重ならないかもしれないって覚悟をいつも持っていないといけなかった。

一度でも『また』が巡ってしまったから、それに甘んじた。


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