きっともう好きじゃない。
「だって、須藤くんも久野さんのこと……」
「好き、だったね」
由麻ちゃんの続けようとした言葉を遮る。
昔はそうだった。あの頃までは続いてた。
「久野さんは? まだ好きなんでしょ?」
「好きだけど、いつかは変わらなきゃ」
「なんで?」
そう聞かれたら、困ってしまう。
変わらなくていいよって、まおちゃんも言ってたっけ。
「好きでいるって難しいんだね……」
だんだんと自分にさえ、自信を持って、胸を張って、まおちゃんが好きって言えなくなっていくわたしがいる。
自信なんてなくて、背中を丸めて俯いて、小さく言うことはできるけど、大っぴらにしていい気持ちではなくなってしまった気がして。
そうやっていつかはまおちゃんのことを忘れられるのなら。
それはそれで、悪くないんだと思う。
まおちゃんと陽日さんが付き合っていると信じていた頃は、本気でまおちゃんとの未来を諦めようとしていたのだから。
「そうだね。とっても、難しい」
由麻ちゃんは今好きな人、いるのかな。
周りをきょろりと見渡して、誰の目もないことを確認したあと、声を潜める。
「由麻ちゃん、好きな人いる?」
「え、なんでそんな小声……? いないよ」
急にひそひそと耳元に寄せて話したせいで、由麻ちゃんがびっくりしてる。
しまった。これはまおちゃんとの距離感だ。
もう、ずいぶんと測っていない距離のはずなのに、簡単に思い出せてしまう。
「まおちゃんのこと、まだ好き?」
「好きじゃないよ。私はあのとききっぱりフラれたし、ほら、それこそ好きでい続けるのって難しいから」
「……好きじゃなくなるって、どんな感じ?」
ふと、そんなことが気になった。
胸の中を手探りで当たっても、思い当たる節がない。
「うーん。上手く言えないけど……久野さんが本当はとっても難しいことを、ずっと自然に続けるってことじゃないかな」
やっぱりちょっとだけ詰めがちになる距離を何とかセーブして、由麻ちゃんの言ったことを復唱する。
とっても難しいことを、ずっと自然に続ける。
難しいこと、好きでいること。
ずっと、続けてる。続いてる好きが、たしかにある。
「わたし、すごいんだ」
呆然と呟くと、由麻ちゃんが目を真ん丸くして笑った。
よほどツボに入ったようで、肩まで震わせて。