きっともう好きじゃない。


「そうだよ、久野さんすごいよ!」


「笑ってるじゃんか」


心外だなあ。

だけど、すとんって胸に落ちた。


ずっと、やめなきゃだとか変わらなきゃだとか、そんなことばかり考えていたから。


「いっておいでよ」


言って、行って。

どちらの意味も込められているような響きで。


ちょうど陽日さんと篠田さんが、さっきの道とは真逆の方面からこちらに向かってくるのが見えた。

ふたりが近くに来る前に、由麻ちゃんがわたしに耳打ちをする。


「がんばれ、久野さん」


届いた瞬間、聞こえた途端に、ぶわっと涙の膜が張る。

溢れてしまう前に慌てて袖拭うと、由麻ちゃんがそれを超える焦りっぷりで困惑した声をもらすから、ふたりが戻ってきたときにびっくりさせてしまった。


別れ際に由麻ちゃんの連絡先を登録して、頑張ったあとのこと教えてねって言われた。

3人と別れた帰り道で、ずっとその言葉が耳にこびりついてる。


『いっておいでよ』にも『がんばれ』にも、ちゃんと返事ができなかった。

だってもう、ちょうど去年の今頃に終止符は打たれてる。


わたしがまおちゃんに『好き』って言った。

まおちゃんはわたしに『好きだった』って言った。


それが、ぜんぶの答えだったんだよ。


もう一度好きを始めよう、なんて無茶なお願いもしたけど、ダメだった。

困らせてでも好きでいるって言った結果が『苦しい』だった。


また、まおちゃんを困らせて、苦しませて、過去の思い出さえ塗り替えてしまう前に、もうわたしも止まりたいって、心のどこかで思ってる。


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