きっともう好きじゃない。
家への帰り道で、見覚えのある背中を見つけた。
また一段と大きくなった背丈。
あと一年、中学校生活を残しているというのに袖も襟も足りなくて、はっきり言ってしまうとちんちくりん。
普段ならわたしが小走りにならないと追いつけない距離だけど、普通に歩いているだけで少しずつ狭まっていく。
それは、薫がひとりではなく隣に女の子を連れていたからだ。
例の『本命渡すから待ってて』の女の子。薫の彼女。
一度家に来たこともある。
和華ちゃんって呼んでくれるのが可愛くて、ぎゅうって抱きしめたら薫が飛んで奪い返しに来る。
追いつかないように距離を開けていると、三股になった分かれ道で彼女ちゃんが手を振って歩いていく。
薫はその場から動かずにずっと背中を見送っていて、ときどき小さく手を振るから、たぶん道の向こうでは彼女ちゃんも振り向いて手を振っているんだと思う。
その間に薫に追いついて向こう側を見遣るけど、もう彼女ちゃんはいなかった。
「ちゅーくらいすればいいのに」
「ちゅー言うな。きもい」
いや、今の薫の言い方の方が鳥肌立ったんだけど。
いきなり背後に立ったのに驚きもしなかった。
さっき歩いてるときに一度振り向いた気がしたのだけど、そのときに気付いてたのかな。
「今度また家に呼んでよ」
「は? イヤだ」
「なんでー?」
「なんでも!」
そうやってすぐムキになるところ、変わらない。
いつになったら冷静に受け流すくらいの対応ができるんだろうって思うけど、外なら完璧にできてるもんね。
わたし限定。姉限定。いらない限定。
「ねえ、まおちゃんいつ帰ってくるか聞いてる?」
「あー、21日」
春休みの間に何日間かだけは帰省すると聞いていた。
あと何日かを指折り数えるけど、両手でも足りない。
「珍しいな。姉ちゃんが眞央のことでしょげてるの。はやく会いたい理由でもあるの?」
「ほんと、懲りないというか……飽きないというか、そういう感じです」
声を小さくして言うと、それだけで理解して納得したような声が返ってくる。
もうほとんどまおちゃんと並ぶ背丈の薫を見上げると、逆光の中で額を指先で弾かれる。
「ま、がんばれ」
「それもうダブったから別の応援して」
「はあ? 調子乗んな」
こうして、まおちゃんのことを薫と普通に話すこともなかった。
この1年、わたしの生活の中にまおちゃんは一欠片もいなかった。
過去のまおちゃんだけがいたはずなのに、ずっと色濃いままで。
褪せることのない想いに、わざと思い出色を重ねようとしても上手くいかなかった。
「姉ちゃん、あとでスマホ貸して」
「いいよ、って! そうだ! かおるこの間勝手に新しいゲーム入れてたでしょ」
「いいじゃん。容量余ってるんだし」
まおちゃんのこと、普通に話せて嬉しい反面。
話題からまおちゃんが消えるとホッとするこの気持ち、なんなんだろう。