きっともう好きじゃない。
彼女とのやり取りは途切れてしまったみたいで、わたしとまおちゃんの妙な応戦も薫のおかげで鎮火した。
その代わりにまおちゃんはまだ難しい顔をしてるけど、わたしの意図を組めなかったことへの報いだと思ってくれたらいい。
知りたくないことまで知ってしまったんだから。
一晩眠ったくらいじゃ消えないようなことを。
なんなら、夢に彼女が出てくるような気がする。
ずっと肩に乗ったままの重みがふっと消えて、振り向くとまおちゃんがベッドから起き上がってた。
ふわふわの髪の毛を手のひらで軽く掻き混ぜてスマホをポケットに仕舞うと、飲みかけの炭酸と未開封のスナック菓子を持って出て行こうとする。
廊下を覗いて、向かい側の部屋のドアを眺め、また考え込もうとしているように見えたからまおちゃんの脇をすり抜けて薫の部屋を開ける。
真っ暗な部屋の中には人の気配がない。
「まだリビングにいるっぽいよ」
「わかった。寄ってくわ」
後ろからポンと頭の上に手のひらを乗せられて、振り向くと同時に離れていく。
リビングに入っていくまおちゃんを見送って自分の部屋に戻る。
机にぶら下がった充電器のコード。
まおちゃんの寝そべった形に縁取られたシーツ。
散らかしたままの思い出を掻き集めて、箱に仕舞った。
どれだけ写真を眺めても、いつに戻れたのならこんな未来にならずに済んだのか、わからない。
物に触れても、大好きと書かれた筆跡に触れても、満たされない。
蓋をしっかりと閉めて、早々に部屋の電気を消した。
廊下の向こうから薫とまおちゃんの声が聞こえた気がしたけど、言葉としては何一つ聞き取れない。
まおちゃんの香りが残るシーツに頬を押し付けて、すうっと息を吸い込むと、少しだけ、泣いてしまった。