きっともう好きじゃない。


「好きだな、これ」


ぺら、とまおちゃんがつまみ上げたのは、わたしが書いた方の手紙。

わたしもまおちゃんが書いた手紙を手に取って、コホンと咳払いをする。


「えー、和華へ」


「またかよ」


もう、見なくても暗唱ができてしまうんだけど。

相変わらず罫線を圧迫する大きな文字を、ひとつひとつ、解いていく。


「いつも仲良くしてくれてありがとう。どういたしまして」


「しかも前と同じだろ、それ」


よく覚えてたね。

ぜんぶ、素直に言いたいんだ。

あの頃の気持ちじゃなくて、今の気持ちで。


「友だちの中で和華がいちばん好きです。……友だちの中じゃなくても、いちばんでしたか?」


よかった。声、震えなくて。

前も黙ってたけど、やっぱりまた黙ったね。

問いかけたことにくらいは、答えてよ。


「和華、大好きだよ」


好きを飛び越えた言葉って、あんまり簡単に使いたくない。

好きはとても広いけど、大好きはとても狭いから。


「今も、大好きですか? わたしは……」


言いかけて、口を噤む。

この続きは、まおちゃんの持ってる手紙で返すつもりで。


肩と肩が触れ合っていた。

離れないけど、ぶつかり合うほどじゃない。

手紙を机に置くと、まおちゃんがすうっと息を吸い込む音がした。


「眞央へ」


こんなに大切な手紙になるって知らなかった。

ちゃん付けじゃなくて、ありのままの裸のままの名前を書いてよかった。


「隣の席の子への手紙って、眞央じゃなくてひかりちゃんがよかった。俺は和華からの手紙がもらえて嬉しかった。帰って何度も読み返すくらい」


一言でさらりと流していくかと思うと、結構真面目なコメント。

目を閉じて、まおちゃんの声だけに集中する。


「産まれたときからとなりで、家もとなり、登下校もとなりなのに、なんで席までとなりなんだろうね。ひとつも欠けることなく、隣のままで大人になるんだと思ってた」


「……うん」


「ここまでずっととなりなら、この先もずっととなりにいられるよね。それは、ちょっとわからなくなったな」


前に読んだときも、はっきりと断言してはくれなかったよね。

わたしも同じ内容の手紙だったのなら、ずっと隣にいられるとは言えなかったと思う。


「眞央、これからもよろしくね」


最後の一行への返事をまおちゃんはしない。

ほら、やっぱり、あのとき『まおちゃん、大好きだよ』なんて書いてなかったんじゃない。


< 132 / 137 >

この作品をシェア

pagetop