きっともう好きじゃない。
「好きだな、これ」
ぺら、とまおちゃんがつまみ上げたのは、わたしが書いた方の手紙。
わたしもまおちゃんが書いた手紙を手に取って、コホンと咳払いをする。
「えー、和華へ」
「またかよ」
もう、見なくても暗唱ができてしまうんだけど。
相変わらず罫線を圧迫する大きな文字を、ひとつひとつ、解いていく。
「いつも仲良くしてくれてありがとう。どういたしまして」
「しかも前と同じだろ、それ」
よく覚えてたね。
ぜんぶ、素直に言いたいんだ。
あの頃の気持ちじゃなくて、今の気持ちで。
「友だちの中で和華がいちばん好きです。……友だちの中じゃなくても、いちばんでしたか?」
よかった。声、震えなくて。
前も黙ってたけど、やっぱりまた黙ったね。
問いかけたことにくらいは、答えてよ。
「和華、大好きだよ」
好きを飛び越えた言葉って、あんまり簡単に使いたくない。
好きはとても広いけど、大好きはとても狭いから。
「今も、大好きですか? わたしは……」
言いかけて、口を噤む。
この続きは、まおちゃんの持ってる手紙で返すつもりで。
肩と肩が触れ合っていた。
離れないけど、ぶつかり合うほどじゃない。
手紙を机に置くと、まおちゃんがすうっと息を吸い込む音がした。
「眞央へ」
こんなに大切な手紙になるって知らなかった。
ちゃん付けじゃなくて、ありのままの裸のままの名前を書いてよかった。
「隣の席の子への手紙って、眞央じゃなくてひかりちゃんがよかった。俺は和華からの手紙がもらえて嬉しかった。帰って何度も読み返すくらい」
一言でさらりと流していくかと思うと、結構真面目なコメント。
目を閉じて、まおちゃんの声だけに集中する。
「産まれたときからとなりで、家もとなり、登下校もとなりなのに、なんで席までとなりなんだろうね。ひとつも欠けることなく、隣のままで大人になるんだと思ってた」
「……うん」
「ここまでずっととなりなら、この先もずっととなりにいられるよね。それは、ちょっとわからなくなったな」
前に読んだときも、はっきりと断言してはくれなかったよね。
わたしも同じ内容の手紙だったのなら、ずっと隣にいられるとは言えなかったと思う。
「眞央、これからもよろしくね」
最後の一行への返事をまおちゃんはしない。
ほら、やっぱり、あのとき『まおちゃん、大好きだよ』なんて書いてなかったんじゃない。