きっともう好きじゃない。
「和華」
まおちゃんがわたしの名前を呼んでくれるの、好きだった。
まおちゃんに呼ばれると、何をしていても、楽しくても、怒っていても、笑顔で振り向きたくなる。
「友だちの中じゃなくても、いちばん好きだ」
「え……?」
「今も、好きだった」
好きって言葉が、鎖とリボンを巻いて回ってる。
ずっと過去形を使っていたくせに、だからわたしもそれに合わせていたのに『好きだ』って言った。
けど、そのあとに『今も好きだった』って言った。
混乱するわたしの頭にまおちゃんの手が乗る。
そのまま、頭の後ろに滑っていって、うなじをなぞったかと思うと、瞬きひとつの間もなくまおちゃんの胸に押し付けられていた。
「今はきっともう、好きじゃ──ない」
否定の前に、何かがあった。
でもそれは、まおちゃんの心臓の音とわたしの心臓の音に掻き消されて、聞き取れない。
「後悔、してた」
ぽつっと、雨みたいに声が落ちた。
1滴だけだったら、降ったのか降っていないのかもわからないような声が、またぽつりぽつりと続いていく。
「和華のこと、大切にしたかった」
「うん」
「手に入れた方が守れない気がして、離れたところから守ってる気になって、結局何も守ってやれないまま、あんな……」
言葉にするのもつらいほど、人の感情に添わなくていいんだよ。
まおちゃんが思うより、わたしは苦しかったかもしれないし、苦しくなかったかもしれない。
わたしの痛みはわたしのもののままにしようよ。
守ってもらいたいわけじゃなかったんだから。
ただ、まおちゃんへの想いを、わたしが守りたかっただけで。
「もう、好きでいたくない」
わたしがそう小声で囁くと、まおちゃんの体が大きく跳ねた。
小さく震え出す前に、ぎゅっと強く抱き竦められる。
「もう言わない。今ので最後にする。一生、言わないよ」
まおちゃんの拘束から片腕だけをどうにか逃れて、大きな背中に回す。
伸ばしたって掴みきれないし、包みきれない背中だ。
この先、また同じことを言われるかもしれない、なんて不安がまおちゃんに少しでも残らないように、宣言した。
約束するよ。
この約束は、まおちゃんとずっと一緒にいられますようにって願いのそばに置いておこうと思う。