きっともう好きじゃない。


どうしたって、何をしたって、好きだ。

まおちゃんのこと、好きだよ。


困らせたいわけじゃないけど、困らせないと好きでいられないっていうのなら、ちゃんとどっちを選ぶかは決まってる。


だって、まおちゃんもわたしのこと、好きでしょう。

嫌いになった瞬間が一度はあったかもしれない。

けど、その一瞬すらかき消すほど、ずっと好きでいたと思うから。


まおちゃんへの好きと同じくらい、まおちゃんからわたしへの『好き』にも胸を張ってみたい。

それ、和華の気持ちじゃないからって言われるかもしれないな。


「まおちゃん、前にわたしを部屋に連れ込んだときのこと」


「和華それ……言い方。いや、事実だけど」


「あれ、まおちゃんもファーストキスだった?」


妙に熟れていたような、でも、今考えてみたらただ夢中だっただけのような気もする。


「セカンドどころかサードだけど」


「うそ……陽日さんと?」


「そんなわけあるか」


「じゃあ、別の誰かと練習……」


いやだ、言っててモヤモヤする。

ぐるぐるして、熱くなって冷たくなって、またカッと熱くなる。


「ではここでヒントタイムいきます」


「やだ、聞きたくない。こなくていい」


首を横に振るけど耳を塞げないせいで、容赦なく囁かれる。


「幼稚園でとある女の子と庭のすみっこで済ませました」


「……へ?」


幼稚園、それってノーカンか迷う年齢かも。

じゃなくて、庭のすみっこって、もしかして。

記憶の深いところ、掘っても掻いてもあとちょっと届かないけど、ぼんやりと輪郭だけは見えてる。


あれ、まおちゃんだったんだ。

誰だか覚えてなかったなんて、言えない。


「まあ、でもそこはノーカンなので」


「やっぱり? そうだよね」


「ファーストキスは和華のを奪うと同時に捧げました」


きゃっ、とかちょっと気持ち悪い声出さないでほしい。

身じろぐと強くなる拘束に、諦めて体の力を抜く。


「嘘つきたくないから、ちゃんと言うね」


ファーストキスのこと、嬉しくって声が上擦る。

だけど、先に伝えなきゃ。


「好きって想う気持ちがときどきすっごい細くなったり、切れかかったりしたことはあるよ」


「……ん。それで?」


「でもちぎれなかったし、切れなかった、強い恋だから」


もっと、上手い言い方ができたらよかったのに。

強い恋って、なんかちょっと脳筋っぽいし。


「まおちゃんのおっきな気持ちを受け止めても、もうビクともしない、と思う。じゃなくて、しません。ちゃんとぜんぶ、抱きしめられるよ」


まおちゃんの気持ちの大きさ、知らないけど。

たぶん、すっごく大きいんだと思う。

だって、たくさん惑わされたし騙されたし隠されてきたから。

生半可な気持ちじゃここまでできないでしょ、きっと。


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