きっともう好きじゃない。
ほつれた恋





週の真ん中、水曜日。


夜7時を過ぎてから薫と近所のコンビニへ向かう。

中学生が出歩いていいの? とか

保護者じゃなくて姉だしわたし未成年だよ、とか

勝手に心配ばかりしていると、実際そんなに堅苦しくないんだよ、と一蹴されたけど本当のところ、どうだかわからない。

きょろきょろと辺りを見渡していると、恥ずかしいからやめてと言われてしまうし。


「姉ちゃんが消しゴムも持ってないと思わなかったんだよ」


「それは……うん、ごめん」


きっかけは薫が消しゴムを失くしたから貸してだか頂戴だか言いに来たことだった。

消しゴムくらいペンケースの中にはあるだろうって思ったら、真っ黒な1センチ大の欠片しかなくて。

こうして薫とコンビニに向かっているところだ。

消しゴムを買いに。どうせ明日からも必要なものだし。


たかが消しゴムひとつに熱くなるのも馬鹿らしくて、蒸し返すのはやめていたのに、また吹っかけられたらたまらない。

さっきまでは薫がストックを持っていればよかったんじゃないかと言い返していたけど、もう黙ることにした。


2月の夜は冷える。

反対の歩道には外灯があるけど、こっちの道には一本も明かりがなくて、月明かりが足元をぼんやりと照らすだけ。


ほどなくしてコンビニに着くと、入口のすぐそばで薫とは離れた。

薫は目的のものをいちばんに探すタイプだ。

なかったら別のところに行かないといけないから、らしいけど、そうタイミング悪く消しゴムが欠品なんてないでしょ。


わたしはふらりと店内を一周して、お菓子の棚へ。

新発売のチョコレートを見つけたけど、これはたぶんまおちゃんが買いそうだから、無難なやつをひとつ持って薫の元へ行く。

しゃがみ込んでふたつある消しゴムと見つめ合っている薫の横に立つと、随分と見上げにくそうな角度で首を曲げて訊ねられる。


「どっちがいいと思う?」


「いつも使ってる方」


「それがあれば姉ちゃんに聞いてない。どっちも普段使ってないやつなんだよ」


どっちでもいい。

というか、迷うなら両方買えばいい。

消耗品だし、ありすぎても困るものじゃないし。


「右」


「ん。じゃあこれ、お願い」


両方買えば、なんて言ったら『姉ちゃんほんとそういうところだよな』とか、何がどうそういうところなのかわからないようなことをため息混じりに言う薫が目に浮かぶから、適当に利き手側を指定する。


チョコレートの箱の上にちょこんと乗せられた消しゴムを持ってレジに向かうと、薫も後ろをついてくる。


「なんかいる?」


「いらない。さっき夕飯食べたろ」


この時間にしては豊潤なホットスナックを指すけど、全然釣れない。

ホットの紅茶を2本追加してお会計している間、薫はじっとわたしの手元を見ていた。


< 14 / 137 >

この作品をシェア

pagetop