きっともう好きじゃない。
あたたかい店内から外に出た瞬間、顔にぶわっと風が当たる。
マフラーの隙間から首にも入り込んできた冷気に身震いして、チョコレートとは別にシールだけ貼ってもらったペットボトルの片方を薫に渡す。
ストレートティーとレモンティー。
両方、薫の好きなものにした。
どうせ横にいたのだから聞けばよかったな、と思いながら、なかなか受け取らない薫の胸の辺りに押し付ける。
「姉ちゃん、ミルクティーじゃなくていいのかよ」
「今日はレモンの気分なの。こっちがいい?」
「いや、これでいい」
ストレートティーのペットボトルを両手で持って擦りながら、先に薫が歩き出す。
その横に並んでビニール袋を反対の手に持ち変えようとすると、サッと薫に奪われた。
「え、いいよ」
「うん、でも持つ」
わたしと色違いのマフラーに顎を埋めて、もごもごと喋る。
手の中でペットボトルを回しながら、道半ばで薫が言いにくそうに口を開いた。
「なあ、姉ちゃん」
「なに?」
「女子って何もらったら嬉しい?」
へ、と間抜けな声がぽろって零れた。
ついでに手からペットボトルも落としてしまって、何してんだよって怪訝な顔をした薫が拾ってくれる。
「ん、ちゃんと持ってろ」
「あ……ごめん。ありがと……」
今度は動揺しても落としたりしないように、しっかりと握る。
何となく止まってしまった歩みをぎこちなく再開させて、心の中で薫が言ったことを反芻する。
でも、結局疑惑というか、もしかしてコレ?ってことしか浮かばなくて、はっきりさせたくて早々に聞き返す。
「……かおるさん、それってどういうことでしょう?」
「姉ちゃんに聞いたのが悪かったんかな」
「まおちゃんよりは頼りになると思うよ」
彼氏なんかいたことないから、経験ではまおちゃんに負けてるけど。
姉だし、女子だし、頼られたのなら答えてあげたい。
「それって、バレンタイン? もらったの?」
「いや、バレンタイン来週だし」
そっか、まだなんだ。バレンタイン。
そろそろだな、とは思ってたけど、今週でもないなんて。
テレビ、スマホのニュース、SNS、さっきのコンビニもバレンタインの文字や色でいっぱいだから、なんかもう毎日バレンタインみたいで感覚がおかしくなってるんだ。