きっともう好きじゃない。
まおちゃんはバレンタイン、どうするんだろう。
彼女にもらうのかな、どこか出かけたりするのかな。
「本命渡すから待っててって言われたんだけど、これどういう意味なの?」
「本命渡すから待ってて!? え、そんなこと言うの……? すごいね」
サプライズにならなくない?
でも、当日までドキドキさせるって意味では作戦としてアリなのかもしれない。
すごいこと言う子がいるんだなあ。
「そもそも、お返しってホワイトデーまで渡さないもんなんかな。でも一ヶ月の間どうすんの。返事だけするの? それならタイミングは?」
あ、薫もちょっと頭がショートしかけてる。
堂々巡りに陥ってしまう前に、落ち着いて、と薫の肩に手を置く。
わたしの手も実はちょっと震えてたんだけど。
「その場で返事していいんじゃない……?」
「逃げられたらどうすればいい?」
「追いかけたら」
「恥ずい」
何で急にちょっと照れるの。
予測できるパターンはいくつもある。
それをひとつひとつ議論するのも違う気がして、頑張れ、とだけ伝えるとわかりやすく肩を落とされた。
「かおる、その子のこと好き?」
色んなことが前のめりになって、大切なことを忘れてた。
どんな子なのか知らないけど、薫はどう思ってるんだろう。
「まあ……わりと一緒にいる。可愛いし、ちっこいし、優しくて……」
言いかけて、ハッと薫がこっちを見た。
つい口角を上げてしまっていたわたしと目が合って、薫の顔が見る間に赤く染っていく。
寒さで赤かった頬や鼻っ柱、耳だけじゃなくて、顔全体に紅を引いたみたいに。
「へえー。そっかあ、かおる好きな子いたんだ」
わたしまで顔が熱くなってきて、マフラーの隙間に風を通す。
ふうっと空に向かって息を吐くと、白い筋が燻りながら上っていく。
「眞央には言うなよ」
「わーかってるよ」
薫のその様子を見たら、まおちゃんは勝手に気付くんだろうけど。
弟に好きな子がいる。
だからってわたしが首突っ込めるわけじゃないし、あんまり口を出したら薫がその手のこと二度と話してくれなくなりそうだから、深追いはしない。
「ふふ、頑張ってね」
「わかったから。その気持ち悪い笑い方やめろ」
まだ赤い耳を指先で揉みながら、薫が歩くペースを上げた。
わたしもそれを追いかけてマンションに到着。
7階のボタンを押してエレベーターに乗る。
その間に薫はもうマフラーを外していた。