きっともう好きじゃない。


「ま、まおちゃん!」


何を言いたいのかも考えていないのに呼び止めてしまったせいで、声が裏返った。

そのくせ、声量だけはやたらと大きくて、びっくりしたらしい薫が横で肩を跳ねさせる。


「なに、和華」


じりっと音を立てて爪先の向きを変えたまおちゃんがわたしの顔を覗き込む。

身長差があるから、屈んでというよりは横から首を傾げて見る感じ。


「バレンタイン、渡してもいい?」


さっきまでは薫の好きな子のことで頭がいっぱいだった。

だけど、まおちゃんの顔を見たらぶわって頭の中がまおちゃんでいっぱいになった。

その隅っこでまだ消えずにいたバレンタインってキーワードが口をついて出る。


薫がぎょっとした顔をするのが見えた。

何で薫がリアクションを取るのかわからない。

それと同じように、薫も突然の姉の行動に困惑してるんだと思う。


「渡してもいいって……和華、毎年くれてたよな。今年はナシのつもりだった?」


「そうだけど、去年までとは違うっていうか」


皆まで言わせないで、まおちゃん。

察してよ、わからないなら、せめて薫が何か言って。


「待ってるよ、和華」


ぽんっと頭の上に手のひらが乗っかる。

いつもの、まおちゃんの癖。

こうされると、上目遣いに見上げるしかなくなって、何だかそれってあざとい気がしてしまうから、いつも顔を俯ける。

この瞬間、まおちゃんがどんな顔をしているのか、わたしは知らない。


「性格悪」


後ろからぼそっと呟く声が聞こえた。

性格? 別に悪くないでしょう。

まおちゃんの手が離れていったと同時に薫を見るけど、ムスッとした顔でどこか他所へ視線を向けてる。

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