きっともう好きじゃない。
すり減った恋
◇
翌日、朝から薫とお母さんはいなかった。
家にはお父さんだけ。
昼前に起きて、リビングに顔を出そうとしたんだけど、体が重くて起き上がるのも億劫。
ぺたんとシーツにうつ伏せてスマホを手に取る。
1時間前に届いていたメッセージはまおちゃんからで、今日は土曜日だから夜にわたしの部屋に来るとのこと。
そういえば、ドラマの続きのことすっかり忘れてた。
先週の内容を思い出そうとしただけで、頭がぐわんと揺れるような感覚があって、次いで胃の中がムカムカする。
覚えのある体調不良に苦笑しながら、昨日のことが尾を引いてるんだろうなって冷静な自分と向き合ってみた。
「うーん……」
こういう時って、まずは何をしていたっけ。
ずっと布団に篭っていると、後になって頭痛だったり吐き気のオンパレードで結構しんどいことは覚えているんだけど。
毛布にくるまったままもぞもぞと動いていると、ピコンとスマホの通知音が耳元で響く。
【⠀和華、起きてる? 】
同じ家の中にいるはずのお父さんからのメッセージに、起きてるよ、と返すと、数秒後に着信画面に切り替わった。
『おはよう、和華』
「おはよ。わざわざ家の中で電話するの?」
『昨日のこと、お母さんに聞いたからな。出て来られそうか?』
「んー……ちょっと、無理かも」
「食欲は?」
「あんまりない」
答えると、電話の向こう側でお父さんが低く唸る。
何か食べさせないとってお父さんは思ってるんだろうけど、わたしは何も受け付けられそうにない。
譲歩して、何か食べられそうなものってあるかな。
「棚の中に春雨スープ、なかったっけ。辛いやつは薫のだけど……卵かわかめ、残ってない?」
『ん、あー、わかめならある』
「じゃあ、それ。ちょっとお湯多めにして持ってきて」
『あいよ』
嫌そうな声ひとつせずにお父さんの方から電話を切られた。
本当は辛いやつだけじゃなくてあのパッケージの中身は全部薫用なんだけど、後で断っておけば大丈夫。
スープはいつもマグカップで飲むんだけど、お父さんはたぶんお椀に注いでくるんだろうな。
お湯を入れてかき混ぜるだけなのに、なかなかお父さんは部屋に来なくて、ベッドから起き上がったとき、コンコンとノックされた。
「おまたせ」
お母さんにもうそれ捨てなよって先週言われてたヨレヨレのセーターを着たお父さんが半端に開いたドアの隙間から部屋に入って、わたしにお椀を手渡す。
やっぱり、マグカップじゃなかった。
わかめの春雨スープ、にしては何だか色味がおかしい。
一目で何を加えたのかがわかってお父さんの顔を見ると、なぜか得意げに笑ってる。