きっともう好きじゃない。


洗い物なんてきっとすぐに終わる。

お母さんか、お父さんでもいい、まおちゃんのこと引き止めてくれないかな。

テレビを観ていていいよ、薫とゲームしていていいよ。

昼間はあんなに会いたかったのに、苦しくなってそれでも我慢したのに、同じ家にいるってわかった途端に会うのがこわくなる。

さっき、薫と一緒にいたときでさえ、ドキドキしてどうしたらいいのかわからなかったのに、ふたりきりなんて無理だ。

薫はドラマには興味がないし、スマホの小さな画面は3人で並んで見るには窮屈だし、そのうちふたりにはなるんだけど、夢中も集中もない空間には堪えられない。


部屋の電気もつけずに、壁とベッドの頭側の隙間に挟まる。

入口からは全然死角じゃないし、埃も溜まってるし、何してんだって自分でも思うけど。

膝を抱えてその間に顔を埋める。

薄暗かった視界が真っ暗になって、それがすごく落ち着く。


足を閉じ込めて結んだ手。

まおちゃんに摩られていた右手がずっと熱い。


まおちゃんから解放されてすぐに、右手の爪を見た。

ずっと摩られていたから、なぞられていたから、感覚が変になっちゃってた。

もしかしたら指の先、溶けてるんじゃないかなって。

そんなことなかったし、爪はいつも通り健康的に色付いてた。

欠けてもいないし、腫れてもいない。


でも、ちょっとだけすり減ってるような気がした。

まおちゃんを好きでいると疲れてしまうわたしの心みたいに。


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