きっともう好きじゃない。


どうしよう、どうしたい?

頭はダメだって言ってる。

誘惑なんだかからかわれているだけなのかわからないけど、乗っちゃダメだよって。

思うつぼだから、自分で立って、それでちょっとまおちゃんと距離を取って落ち着こうって。


心は違った。

したいようにしようよって。

それってつまり、まおちゃんのその両腕の中に飛び込みたいってこと。

きっとわたしよりは落ち着いた脈を数える心臓の真上に擦り寄りたいって、せめぎ合う頭の冷静さがなかったら、もう勢いのままに抱きついてる。


ぐちゃぐちゃだ。

気持ちも、思考も。

何でダメなの? って、答えが明確じゃない問いを頭が打ち出すから、もう考えることを放棄したくなる。


理性との戦いって、たぶんこういうことだ。

わたしは負けないって思ってたけど、流されるみたいに簡単に押し負けそうになる。

負けた方が、欲しいものを得られるなんて、ひどいよね。


「……ね、まおちゃん」


目を逸らした。

まおちゃんの顔も目も、伸ばされた手も視界に入らないくらいに不自然な角度と動きをつけたから、違和感とか不信感、全部伝わってると思う。


「彼女の写真、ないの?」


言いながら、自分の足で立ち上がる。

震えないように、しっかりと足の裏に力をこめて。


会いに行くのは到底無理な話だから。

都合のいいわたしの中ののっぺらぼうを、ちゃんとまおちゃんの彼女として、ハルヒさんとして下したい。


ベッドの前に立って、まおちゃんを見下ろす。

まおちゃんはわたしに向かって広げていた手をベッドの柵に預けたまま、だらんと下ろしている。

まるで、行き場を失ったような手。

まおちゃんの瞳は、わたしの行動が予想外だったとでもいうように、不安定に揺れていたけど、瞬き一度で消え去る。


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