きっともう好きじゃない。
「ハイかイエスで答えて」
「え、それどっちも……」
「眞央の高校、見に行こう」
最後まで言わせてくれなかった。
逃げ道がないことを示してから聞くの、ずるい。
そのやり口ってまおちゃんの十八番だよ。
そんなところ、薫はまおちゃんに似なくていいの。
「うちの中学から眞央の高校に行くやつ、あんまりいないんだろ」
「っ、でも……」
確かに、わたしとまおちゃんが卒業して、今薫が通っている中学からまおちゃんの高校へ進むのは珍しい。
遠いし、目立った特色があるわけでもない、偏差値だって普通の県立高校。
まおちゃんと同学年で同じ中学を卒業した人がいるのかすら、わたしは知らない。
いるかもしれないし、いないかもしれない。
いたとしても、わたしのことなんて一目見たくらいじゃわからないかも。
それでも、中学のときの頃を思い出すと、奥歯が震える。
足が竦んで、息がしにくくなる。
思い出したくない、わたしが逃げ出した過去のこと。
思い出したくない。
たとえまおちゃんのことを知るためであっても、過去と繋がるものにまで触れてしまうかもしれないのなら、知らないままでいい。
曖昧なままで、もやもやしたっていい。
それだけは、絶対に揺らがない。
ハイともイエスとも言わずに俯くわたしに、薫は小さく息を零した。
ため息未満の困り果てたような吐息だった。