きっともう好きじゃない。


「嫌なんだな?」


「……うん」


「じゃあ、もう眞央のことは諦めろ」


俯いた頬に、鼻先に、雫が伝っていく。

ソファにポツポツと小さな玉をいくつも落として、それを隠そうと手のひらで覆うけど、薫はわたしの涙なんて気にしていないようで。


泣いたって許してくれない。

泣いたって、慰めてくれない。


「腹立つんだよ。姉ちゃんも、眞央も」


「なんで、まおちゃんも……?」


「だから、わかってるんだろって」


これ以上、回りくどいことをしていたら、薫の堪忍袋の緒がプツンと切れてしまうタイミングも遠くない。

薫の言わんとすることがわかっていて、それでも縦に首を振ってしまったら、これまでの全部が裏返ってしまうことになる。

薫がまおちゃんの高校へ行こうって言う意味も、その確証を得るためだ。


「姉ちゃん、聞いて」


険しく刺々しかった声が凪いでいく。

熱を持って腫れた瞼を閉じて、視界を閉ざす代わりに薫の話に耳を傾ける。


「眞央に彼女はいない」


どうして、そう確信めいたように言うんだろう。

だって、まおちゃんが自分から言ったんだよ。

去年の7月7日。

『和華、俺彼女できたんだ』って。


ついこの間まで名前も容姿も知らなくて、写真も見せてくれないけど、まおちゃんの彼女はちゃんといる。

幼馴染みだからって、彼女がどんな子なのか知っていなきゃいけないことはないし、彼女からしてみたら彼氏の幼馴染みが女の子だなんて、知りたくもないかもしれない。


ずっと、不安だった。

まおちゃんに彼女ができたって聞いたときから、ずっと。

たとえば、彼女がまおちゃんに『幼馴染みの女の子と会わないで』って言ったとして、まおちゃんがそれを聞き入れたら、もう会えなくなるかもしれない。

まおちゃんがわたしの家だけじゃなくて、部屋にまで出入りしていることを知ったら、変に思うし止めさせるに決まってる。


彼女がいるのにそんなことしたらダメだよっていうようなこと、たくさんあった。

拒否しきれなくて、しっかりと叱りきれなくて、わたしも受け入れてしまいがちだったけど。


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