きっともう好きじゃない。
「姉ちゃんってほんと、頭固いわ」
捨て台詞のように言うと、薫はゲーム機の操作を再開して、もうこっちを見なかった。
玄関に近い部屋から順に、リビング、両親の部屋、薫の部屋があって、薫の向かいにわたしの部屋がある。
物置きは廊下の突き当たり。
普段は開けることなんてそうそうない物置きの戸が半分開いていて、中はこの家の中で唯一の蛍光灯がついていた。
そこから、二人分の話し声。
「あ、これ?」
「ううん、違うのよ。大きさは同じくらいで、色がもっとくすんでて……」
物置はせいぜい四畳ほどで、段ボールが天井までぎっしりと詰まっている。
お母さんの姿は見えないけど、まおちゃんの背中は見えた。
制服のシャツがズボンから出て、パンツが覗いてる。
青地に白いラインが入ったパンツで、ブランド名っぽいのが書いてある。
しばらくじいっとまおちゃんのパンツ、じゃなくて背中を見ていると、物置きの奥でお母さんが声を張った。
「あ、あった! これこれ、このテディベア」
「見つかった? 良かった。見せて。……あー、確かに、こっちより白っぽい」
なにかと思えば、探していたのはテディベア。
まおちゃんがふたつ抱えたそれを背中から覗く。
色違いなだけかと思ったけど、よく見ると顔が違った。
探していた方のテディベアにはアニバーサリーのタグがついてる。
「お母さん、なんでこれ探してたの?」
「昨日ね、お父さんと昔のアルバムを見てたんだけど、その子を買ったときの写真があってね。部屋に置こうと思って探してたの」
まおちゃんからテディベアを受け取って、2匹をぎゅっと抱きしめたお母さんが嬉しそうに笑う。
だから、そんな理由で? とは言えなかった。
アニバーサリータグのついていない方のテディベアも部屋に置いておくと言って、お母さんは行ってしまった。
散らかった物置きは明日どうにかすると言っていたけど、まおちゃんとわたし、どちらからともなく片付け始めた。
「あ、まおちゃん。これ」
段ボールを開いていたらキリがないから、奥へ奥へと押しやっていく。
最後に残った小ぶりな箱には見覚えがあって、蓋の埃を払いながらまおちゃんに見せる。
「うわ、それ……懐かしいな」
「だよね、部屋で見ようよ」
物置きの付近に散らばった埃はお母さんに任せることにして、小ぶりといっても両手で抱えるサイズの箱をわたしの部屋に持っていく。
ラグの上に下ろして、箱を挟んで向かい合って座るわたしとまおちゃんで顔を見合わせる。