きっともう好きじゃない。


「んじゃ、姉ちゃんはやく着替えて」


「え?」


「え? じゃなくて。その格好はないわ」


薫の格好はグレーのトレーナーに紺のジーンズ。

わたしはというと、お父さんの古くなったパーカーに糸が解れた芋ジャージ。

下は学校指定のものではなくて、ネットで良さげだと思って買ったんだけど、薫にわざわざ芋ジャー買うやつがあるかって大笑いされた記憶がある。

さすがにこれで外を出歩く勇気はない。

まおちゃんには見せられるけど、まおちゃんの両親に見られるのは恥ずかしい。


じゃなくて。


「今から行くの?」


「姉ちゃんが乗り気なうちにな」


いや、全然乗り気ではないよ。

今のうちに連れ出しておきたいって気持ちはわかる。


「午前授業のときって、3時までは外に出たらダメじゃなかった?」


わたしのときの規則だけど、今も変わらずに言われていることだと思う。

見回りもあるって言ってた。

破って出歩いたことがないから、本当に見回りをしていたのかはわからないけど。


「だから、そんなん律儀に守ってるやついないんだって」


「うそ。まおちゃんとわたし守ってたよ」


「そこ基準にすんな」


薫に流されているのか本当に他の人もそうしているのか、確かめようがない。

大丈夫っていうなら信じたいけど、もし見つかったら薫はどうするんだろう。


「ほら、3分で用意してこい」


まだ納得していないのにソファから落とすように薫に肩を叩かれて、よろめきながら立ち上がる。

追い払うみたいに手を振られて、渋々部屋に戻って着替えを済ませリビングに戻ろうとしたけど、薫は既に玄関で待機してた。


「かおる、何も持たないの?」


手荷物ひとつ持たずに、ジーンズのポケットもぺたんこ。

まおちゃんは電車通学をしているし、歩いて行けるような距離じゃない。


「姉ちゃん持ちだよなあ?」


「……うん、知ってた」


消しゴムのお金だって、結局薫からはもらっていない。

まあいいいかって流してたけど、お金にルーズな癖は持たない方がいいに決まってる。

この場合、付き合わせてるのはわたしだから、いいとして。

次は絶対甘やかさないって心に決めた。


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