きっともう好きじゃない。


小鳥の囀りが聞こえた。

囀りと呼ぶには少し、必死な鳴き声。

声のする方を見遣ると、屋根の一角に巣があって、雛が数羽ひしめき合っていた。

わたしがずっとそっちを見ているから、薫もちらりとだけ目をやったけど、すぐに興味なさげにそっぽを向いた。


5分ほどしてホームに入ってきた電車に乗り込むと、薫は後ろの車両に歩いていく。

わたしも何も言わずについて行く。


「下りるとき、こっちにいた方が改札近いから」


「あ、そうなんだ。なんで知ってるの?」


「行ったことあるし」


ボックス席に向かい合って座る。

進行方向にわたしを座らせてくれたのは、たぶん薫の気遣い。


薫はわたしの知らないところで、色んなところに行っているらしい。

秋にまおちゃんの高校の文化祭に呼ばれたから、最寄り駅の改札がどういう形なのかも知っている、と。

そういえば、秋頃にまおちゃんが文化祭のこと話してた。

わたしが行きたがらないことを知っていたんだろうから、誘われなかったけど、薫にも声をかけていたんだ。


スマホを持っていない薫は手持ち無沙汰なようで、車窓の向こう側を眺めていた。

ずっと遠くを見つめていた。


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