きっともう好きじゃない。
「眞央に会っても普通にしとけよ。何言われても答えんな」
「無理だったら?」
だって、わたしを見かけたら絶対まおちゃん走って来そうだし。
問い詰められて白状できるような動機じゃないけど、少しの動揺でまおちゃんは何事かって疑うと思う。
そうなったときに、まおちゃんを欺けるようなスキル、わたしは持っていない。
「そのときは逃げろ」
「そっちのが無理だよ!」
捕まって終わりだ。
何で逃げるのかって、余計な尋問まで始まってしまう。
「四の五の言わずに来るんだよ」
「ま、待って。せめてその辺に隠れてまおちゃんが帰ってからにしようよ」
「そのハルなんとか、見逃していいのかよ」
見たところ、まだ下校時刻ではないようで駅へ向かう人もグラウンドで部活をしている様子もない。
のっぺらぼうで透明人間なハルヒさんはともかく、まおちゃんがこれから学校を出てくることは確実で。
せめて、を優先しようとしたらハルヒさんのことまで見逃してしまう可能性だって十分ある。
でも、たしかまおちゃんが言ってた。
「運動部だから足の筋肉があるって」
「は? あいつどこ見てんだ」
スカートから下の足のことだとしたら、たぶんふくらはぎ。
ふくらはぎが発達する部活、スポーツってなんだろう。
スマホでこの高校のホームページにアクセスして、部活動一覧を開く。
薫が横から画面を覗いて、あっと声を上げた。
「最近、ここの陸上部の成績すごいんだよ」
勝手に陸上部の詳細を押されて、出てきたのはずらりと並ぶインターハイの結果。
各種目、市総体と県総体でかなりの人数の名前が挙げられてる。
国体に出ているのはハードル走の男子がひとりだけ。
「いるじゃん、ハルヒ」
「えっ?」
つらつらと並んだ名前を目で追いかけていたら、先にいちばん下にたどり着いた薫が、ここ、と指で示す。
西野 陽日。
女子の短距離走で市総体2位。
県大会の欄にはいなかったから、出ていないのか結果が載らなかったのかはわからない。
「顔、載ってたらわかるんだけど……」
「誰も載せてないな。そういうの、最近うるさいし」
陸上部にいることと、名前さえわかっていれば、もう会うことはできる。
だけど、わたしとしては遠目に見てハルヒさんがまおちゃんの言った特徴と一致していたら、それでいい。