きっともう好きじゃない。


「ちょっとトイレ」


早々に見飽きてしまっていた薫が塀を離れて行こうとする。


「待って、わたしも行く」


「何でだよ。後にしろ」


また少し不機嫌そうな声で言って、駅へ向かう。

もしかして校舎の中で借りるのかなって思ったけど、それはないか。


陸上部では、アスファルトにみんなで円を描いてストレッチが始まっていた。

地面に座られてしまったらこちらからはあまり様子が見えなくて、帰りの電車の時間を調べておくことにした。

たぶん、もう薫が調べているんだろうけど。


「……まだ?」


スマホを開いていちばんに目に飛び込んだのは、メッセージの通知。

まおちゃんからのメッセージで『まだ?』とだけ。

7分前に届いたそのメッセージに『何が?』と返すけど、一向に返事は来ない。


「かおるも遅いし」


校舎を出て駅へ向かう生徒の後ろ姿がちらほらと見えるだけで、駅からこちらへ向かってくる人影はない。

薫に限って迷うことはないだろうし、というか、迷いようがない。


こういうとき、薫がスマホを持っていないって不便だ。

駅の方まで様子を見に行こうとしたとき、メッセージを受信してスマホのランプが点滅する。


『ごめん。ミスった』


まおちゃんからだ。

わたし宛じゃなかったってことでいいのかな。

ミスったっていうけど『まだ?』と聞くということは、誰かを待っていたってこと。

ハルヒさんにそれを言うのはおかしいし、別の誰かと待ち合わせでもしていたのだろうか。


大丈夫、と返してスマホから視線を上げると、ストレッチも済んだようで、部員たちが散らばっていく。

休憩にしては早いような気がして様子を見ていると、数人が正門周りに集まって、ひとりはストップウォッチをぶら下げていた。

かけ声と共に一斉に走り出して、さっきよりもペースは遅いけど、すぐに校舎の裏側へ消えてしまった。


< 59 / 137 >

この作品をシェア

pagetop