きっともう好きじゃない。


何度か電車の発車音を聞き届けて、外が暗くなったころ。

どの部活も終わるタイミングは同じなのか、ユニフォーム姿の生徒がぞろぞろと駅に入ってきた。

待ち合い室の小窓から人の波を見ていると、ずっと眠っていた薫がかすかに唸る。


「おはよ。ちょっとはマシになった?」


「……ん」


寝起きであまり頭が回っていないのか、眠る前よりもぼんやりとしているけど、頬には赤みが戻っている。

わたしの肩に押し付けられて不自然にぺたりとした左側の髪を梳きながら、片方の手で目を擦る。

わたしもずっと薫がのしかかっていた肩や腕を軽く解していると、ホームに電車が入ってきたらしく、外から聞こえていた人の声はぴたりと止んだ。


それから少しして、引き戸が向こう側から開けられる。


「おまたせー。ごめんね、待たせて」


「ううん、平気、で……す……」


しっかりと制服に着替え直した篠田さんの後ろにいる人が目に止まって、声が掠れていく。

じっと瞬きもせずにいるわたしに小首を傾げたあと、篠田さんが後ろを向いた。


「ほら、入って」


篠田さんと同様に制服姿の女の人。

膝が完全に見える長さのスカート丈と、そこから伸びた足は確かにほどよく筋肉がついている。


だけど、まおちゃんの言うハルヒさんとは決定的に違った。


「はじめまして。西野陽日です」


鼻と頬に散ったそばかす、は合ってる。

まおちゃんは右目だけ二重って言ってたけど、両方一重だ。

それも、かなり瞼が重そうに見える。


なにより、西野陽日と名乗ったその人の髪は胸元まで伸びている。

これは、ショートとは言わない長さだ。


まおちゃんが、髪はロングと言ってショートの人が目の前に現れたのなら、まだ納得はできる。

切るのは簡単で、一瞬だから。

だけど、逆はそうじゃない。

ショートヘアの人がロングにしようとするのには、年単位の時間がかかる。


肩にかかる程度なら、ショートと呼んでも仕方ないって言えたのかもしれないけど、この長さは勘違いのしようがない。


自己紹介をされたのにこちらは立ち上がることもできずにいると、同じく座ったままで陽日さんと篠田さんを見ていた薫がわたしだけに聞こえる声で囁く。


「……やっぱ、そういうことか」


なに、そういうことって。

薫は何か知ってるの?

わたしより先に、陽日さんを見て確信する何かがあった?

まおちゃんの嘘が、まだ広がるの?


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