きっともう好きじゃない。


自分の顔がひどく強ばっていることがわかって、失礼だとは思うけど、陽日さんから視線を逸らす。

代わりに話してほしいと薫を頼ることもできずにいると、伏せた視界にスニーカーのつま先がフェードインする。


「とりあえず、座っていいかな」


仕切ってくれたのは、篠田さんだった。

頷くことに精一杯で膝に置いた手をぎゅっと握り込む。


斜めに向かい合うように、篠田さんと陽日さんが座る。


「どうしよっか。あ、俺も自己紹介しとく?」


誰の返事も待たないまま、篠田さんが喋り出した。


「篠田忍。しのしのって呼ばれてます。2年な」


「しのしのなんて呼ばれてるところ見たことないんだけど?」


「結構可愛いじゃん?」


篠田さんと陽日さんの会話を聴きながら、ちょっとずつ冷静になる頭で考えた。

篠田さん、2年生なんだ。

その篠田さんとタメ口で親しそうに見えるということは、たぶん陽日さんも2年生。


また、まおちゃんが言ってたことを思い出した。

自分の繊細で緻密な記憶力がだんだんと嫌になってくる。


言葉のやり取りの中で情報が足りなかっただけで、嘘ではないのかもしれないけど。

まおちゃん、陽日さんとクラスが違うって言ってた。

学年が違うとは、聞いていない。


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