きっともう好きじゃない。


「知って、ます?」


まおちゃんのこと、フルネームで呼んだのもちゃん付けをしなかったのも、随分と久しぶりのことに思える。

反応を確かめたくて、陽日さんを見た。


正直、どちらの返事を求めていたのか、わからない。

知っていると答えられても、知らないと言われても、どちらでもよかった。


陽日さんがどちらかの答えを口に出すよりも先に、表情でぜんぶわかってしまったのだけど。


一拍、二拍。

4人の呼吸が交互に行き交って、止まる瞬間がない。


数十秒、もしかしたら数秒かもしれない。

体感よりもずっと短い間を置いて、陽日さんが言う。


「どうやって私に行き着いたの?」


答えること、答えないこと、濁すこと。

どれでもいいよ、っていうみたいな優しい問いかけ。


まおちゃんが嘘ばかり吐くから、最近はずっと肩の力を抜けずにいた気がする。

緊張状態を常に保っていないと、嘘に飲まれて、いつか種明かしをされたときに戻ってこられなくなりそうで、こわかった。


聞きたいことはたくさんある。

聞かない方がいいことも、ちょっとだけある。

その前提として、確かめておかないといけないことを口にした。


「まおちゃんと……眞央と付き合ってるんですか?」


牽制のつもりなんてない。

ただ、この場で『まおちゃん』という親しみのある呼び方をしては、陽日さんと対等に話せない。


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