きっともう好きじゃない。


「付き合ってないよ」


とても難しそうな顔をして、陽日さんはそう言い切った。

呆気に取られて薄くくちびるを開いていると、なぜか篠田さんが補足をする。


「陽日と須藤は本当に付き合ってないよ。ただ、あいつの頼みを陽日が引き受けただけの話。その頼みってが、つまり、和華が知りたかったことだよ」


「頼み……」


わたしが知りたかったこと。

まおちゃんに本当に彼女がいるのか。

陽日さんが本当に実在する人なのか。


もう、どちらも証明された。

言葉の上では、の話だけど。


「わたし、知らない方がよかったんですか?」


まおちゃんに何も言わずにここまで来た。

嘘をついたのはまおちゃんだけど、謀っているという意味では、わたしも同罪なことをしてる。

心苦しい。

まおちゃんも、こんな気持ちになってまで嘘を吐いていたのだとしたら。

結局、その理由がわからなければ意味がない。


「俺はそうは思わないよ。須藤の言いたいこともわかるけど、あいつの話を聞いてたら、和華のことが不憫で仕方なかったから」


「ふ、不憫って……」


まおちゃん、何を話したの。

この口ぶり、たぶん篠田さんはわたしのことを知ってた。

まおちゃんから聞いただけだから、見ただけじゃわからなかっただけで。

休憩の間に話しかけたときにはもう察しがついてたんだと思う。


「私も忍と一緒」


篠田さんの隣で陽日さんが同意を示した。

素直に受け取ることができないのは、まだ不明瞭なことがたくさんあるからだ。


まおちゃんが嘘を吐いてまで築き上げたものを、ここまで壊しに来た。

だからもう、まおちゃんの本当の気持ちに触れにいくことも許されると思う。


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