きっともう好きじゃない。





帰りは徒歩圏内だという篠田さんと陽日さんとは駅で別れて、帰りの電車に揺られる。

また向かい合って座った席で、薫はずっと腕を組んでいた。

眠っているのかと思ったけど、そうではないようで、考えごとをしているらしい。


たぶん、さっき陽日さんを連れていったあとのことが、薫を悩ませている。

困らせているのか、呆れさせているのか、ぜんぶなのかもしれないけど。


「かおる」


やっぱり眠ってはいなかったようで、声をかけるとすぐに顔を上げた。


「なに?」


「わたし、帰ったらまおちゃんに会う」


「……本気で言ってる?」


冗談でこんなこと言わないよ。

今日でなくてもいいけど、今日の方がいいと思う。

今日知ったことたちが整列してしまう前に、まだ頭の中に散らばっているうちに、まおちゃんにぶつけたいことがある。


薫から目を逸らさずにまっすぐに見つめる。

先に視線を背けたのは薫だった。


車窓の外を見遣るけど、表情はぜんぶガラスに反射してる。

見えたからって、何も読み取れはしないんだけど。


「何を話すんだよ」


「それは……」


まおちゃんはきっと、誤魔化しきれないってわかったらすべて白状すると思う。

往生際の悪い男の子じゃなくて、どちらかというと潔いから。


「まおちゃんに、好きって言う」


その理由がなくなったと思うんだ。

まおちゃんに好きって言えなかった理由。


まおちゃんに彼女ができたって聞くまでは、言わなくてもいいって思ってた。

それから、言えなくなってしまって、ずっと苦しかった。

今のこの状況はむしろ好都合なんだ。

まおちゃんに、やっと好きって言える。

言いたくなったけど、言えない方がもっと苦しい。


人を好きになるって、単純だけど難しくて。

ひとりで抱えるには少し重すぎる。


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