きっともう好きじゃない。
◇
帰りは徒歩圏内だという篠田さんと陽日さんとは駅で別れて、帰りの電車に揺られる。
また向かい合って座った席で、薫はずっと腕を組んでいた。
眠っているのかと思ったけど、そうではないようで、考えごとをしているらしい。
たぶん、さっき陽日さんを連れていったあとのことが、薫を悩ませている。
困らせているのか、呆れさせているのか、ぜんぶなのかもしれないけど。
「かおる」
やっぱり眠ってはいなかったようで、声をかけるとすぐに顔を上げた。
「なに?」
「わたし、帰ったらまおちゃんに会う」
「……本気で言ってる?」
冗談でこんなこと言わないよ。
今日でなくてもいいけど、今日の方がいいと思う。
今日知ったことたちが整列してしまう前に、まだ頭の中に散らばっているうちに、まおちゃんにぶつけたいことがある。
薫から目を逸らさずにまっすぐに見つめる。
先に視線を背けたのは薫だった。
車窓の外を見遣るけど、表情はぜんぶガラスに反射してる。
見えたからって、何も読み取れはしないんだけど。
「何を話すんだよ」
「それは……」
まおちゃんはきっと、誤魔化しきれないってわかったらすべて白状すると思う。
往生際の悪い男の子じゃなくて、どちらかというと潔いから。
「まおちゃんに、好きって言う」
その理由がなくなったと思うんだ。
まおちゃんに好きって言えなかった理由。
まおちゃんに彼女ができたって聞くまでは、言わなくてもいいって思ってた。
それから、言えなくなってしまって、ずっと苦しかった。
今のこの状況はむしろ好都合なんだ。
まおちゃんに、やっと好きって言える。
言いたくなったけど、言えない方がもっと苦しい。
人を好きになるって、単純だけど難しくて。
ひとりで抱えるには少し重すぎる。