きっともう好きじゃない。
「ねえ、まおちゃんも読んでよ」
「和華が勝手にやり始めたんだろうが」
「ね、おねがい」
とびきり可愛らしく、首を傾げて見せた。
「鳥肌立ったわ」
本当に少し引いた顔をして、まおちゃんは手紙を開いた。
黒目があっちいってこっちいって。
声に出して読み上げてくれるのを待っていると、まおちゃんは観念したのか、薄い乾いたくちびるを開いた。
「眞央へ」
あ、ちゃん付けじゃなかったんだ。
そういえば、これを書いた頃、女の子じゃないからちゃん付けはやめてってまおちゃんにいつも言われてたんだっけ。
「隣の席の子への手紙って、眞央じゃなくてひかりちゃんがよかった。……ああ、そうかよ」
「ぶふっ」
わずかな間の後、ワントーン下がった不機嫌そうな声につい吹き出して笑ってしまう。
「産まれたときからとなりで、家もとなり、登下校もとなりなのに、なんで席までとなりなんだろうね。全部隣でも飽きないからいいんだよ」
「飽きてたよ、その頃は」
「ここまでずっととなりなら、この先もずっととなりにいられるよね。現在10年後だけど今のところ隣にいるな」
この辺りは何となく自分が書いたことを覚えてる。
今のところって言葉が引っかかってつんのめる。
「まおちゃん、大好きだよ。おう、ありがとうな」
「うそ、そんなこと書いてないよ」
慌ててまおちゃんの持つ手紙を奪おうとするけど、高く持ち上げられてしまう。
追いかけようとして、まおちゃんの膝と肩に触れた。
そうして、まおちゃんがほんの少しでも動揺したり、驚いたりしてくれたらいいんだけど、悲しくなるくらい無反応。
「眞央、これからもよろしくね。こちらこそ、よろしく」
最後は、わたしと同じように目を合わせて言ってくれた。
わたしはまおちゃんに触れた手を離して、無言で頷く。
これからもって、いつまで続くんだろう。
生まれてから16年、この手紙から10年。
もうじゅうぶんじゃない?
幼馴染みはもう変わりようがないけど、家がお隣さんなのはたぶん、まおちゃんが高校を卒業したら終わる。
友だちの中でいちばんだって、実はもう変わってるかもしれない。