きっともう好きじゃない。


最寄り駅に下りたあと、どこにも寄らずに薫との会話もなくまっすぐに帰路についた。

マンションのエレベーターに乗ってから、まおちゃんにメッセージを打つ。

少しのラグのあとに無事送信されたメッセージは『外に出て』という簡素なものだった。

これだけでは『なんで?』とか『は?』って返ってくるかと思ったんだけど、エレベーターが7階に到着してドアが開いた瞬間に『わかった』と返事がきた。


ここでまおちゃんを待つつもりで、エレベーターの脇に立っていると、なぜか薫も横に並ぶ。


「あ、鍵?」


「ちがう」


「え……? かおるは先に帰っていいんだよ?」


というか、薫がいると話しづらい。

まおちゃんとふたりきりで話したい。

そう伝えると、薫は大きなため息を零した。


「危機感ってもんがないのか、姉ちゃんには」


危機感って、そんなことを心配してたの?


「大丈夫だよ。まおちゃんだもん」


「大丈夫じゃないんだよ。眞央だから」


反語のように言って、またひとつため息を零した薫がわたしに人差し指を突きつける。


「絶対ここで話せよ。別のところには行くな」


「わかったって」


「何かあったらすぐ叫べ。大声出せ」


「……わかった」


「なんだその間は」


「わかりました!」


半ばヤケになって声を上げると、薫はふんっと鼻を鳴らして家に入っていった。

まさか玄関のドアの前で待機している、なんてことはないと信じて、まおちゃんを待つ。


< 70 / 137 >

この作品をシェア

pagetop