きっともう好きじゃない。
最寄り駅に下りたあと、どこにも寄らずに薫との会話もなくまっすぐに帰路についた。
マンションのエレベーターに乗ってから、まおちゃんにメッセージを打つ。
少しのラグのあとに無事送信されたメッセージは『外に出て』という簡素なものだった。
これだけでは『なんで?』とか『は?』って返ってくるかと思ったんだけど、エレベーターが7階に到着してドアが開いた瞬間に『わかった』と返事がきた。
ここでまおちゃんを待つつもりで、エレベーターの脇に立っていると、なぜか薫も横に並ぶ。
「あ、鍵?」
「ちがう」
「え……? かおるは先に帰っていいんだよ?」
というか、薫がいると話しづらい。
まおちゃんとふたりきりで話したい。
そう伝えると、薫は大きなため息を零した。
「危機感ってもんがないのか、姉ちゃんには」
危機感って、そんなことを心配してたの?
「大丈夫だよ。まおちゃんだもん」
「大丈夫じゃないんだよ。眞央だから」
反語のように言って、またひとつため息を零した薫がわたしに人差し指を突きつける。
「絶対ここで話せよ。別のところには行くな」
「わかったって」
「何かあったらすぐ叫べ。大声出せ」
「……わかった」
「なんだその間は」
「わかりました!」
半ばヤケになって声を上げると、薫はふんっと鼻を鳴らして家に入っていった。
まさか玄関のドアの前で待機している、なんてことはないと信じて、まおちゃんを待つ。