きっともう好きじゃない。
歩いている間はそんなに気にならなかったけど、7階に吹く風は冷たくて、両手を擦り合わせる。
眼前に持ってきた手に息を吹きかけていると、まおちゃんの家のドアが開いた。
いつもわたしの部屋に来るときと変わらない格好のまおちゃんがちょいちょいと手招きをする。
「そこ、寒いだろ。こっち来い」
「ううん、ここでいい」
まおちゃんに限って、何かされるだなんて思わない。
家の中にはまおちゃんの両親だっているはずで、頑なに拒否するのも変なんだけど、薫に言われたことを早々に破るわけにはいかない。
足を一歩も動かさずにいると、まおちゃんが家から出てきた。
素足にスリッパ。
見ているだけで震え上がりそう。
まおちゃんは出てきたばかりなのに鼻先が赤く染まってる。
いつも、外に出るときは重装備でもこもこのまおちゃんが、上着も羽織っていない。
「俺が寒いから。おいで、和華」
「っ、でも」
「和華、今日俺の学校に来てたんだろ」
抑揚のない声で言われて、息が詰まった。
ぎ、と音が出そうなほど不自然に首を擡げると、まおちゃんが背中を丸めて至近距離で見つめてくる。
「見てた、の?」
「見てないよ、和華は」
わたしは、ということは。
わたしと一緒にいた薫の姿を見たということ。
薫と離れていたのは、薫がトイレに行っている間だけだ。
そのときに、駅かその周辺で姿を見られたんだと思う。
でも、それってわたしもいたとは言いきれないよね。
「見て、これ」
まおちゃんがポケットからスマホを取り出して操作すると、わたしに向かって差し出す。
画面には、わたしとのメッセージが表示されている。
だけどそれは、最後の一文を除いて、わたしの知らないやり取りだった。