きっともう好きじゃない。
『もう授業終わった? 薫』
『薫? いま終礼中。あと10分くらい。話長いわ、今日』
『わかった。眞央どっち通るんだっけ。裏?』
『裏だな』
『じゃあ、そっち通って。駅で待ってる』
薫のメッセージからのあと、15分後にまおちゃんからのメッセージを受信している。
これは、わたしも見たやつ。
『まだ?』って届いたときはわからなかったけど、まおちゃんのミスじゃなくて、薫にスマホを渡していた間にふたりで話してたんだ。
わたしのスマホでは削除されていたし、まおちゃんもミスったって言うから信じきっていた。
「さ、和華」
肩に触れるまおちゃんの手が冷たい。
優しいけど、有無を言わせないような絶妙な強さで肩を掴まれて引き寄せられる。
「薫と俺、どっちを信じる?」
「どっち……って……」
「薫は俺に会ったこと言ってた? 言ってないだろ。隠す意味もなかったはずなのに」
まおちゃんの言うことを正当化するのは簡単。
薫がまおちゃんと会っていたことを隠す理由が思いつかない。
まおちゃんとわたしが鉢合わせないように、だとしても、メッセージのやり取りにわたしのスマホを使っていた時点で、まおちゃんはわたしがあの場のどこかにいたことを知っていたはずで。
薫がまおちゃんを呼ばなければ、わたし達が今日あの場にいたことをまおちゃんは知らないままだったかもしれないのに。
「和華が聞きたいこと、ぜんぶ言って。ぜんぶ、答えるから」
その代わり、とまおちゃんはわたしの肩を引き寄せた。
まおちゃんの肩にぶつかって、真上を見上げると、鼻先がぶつかりそうな距離で囁かれる。
「なあ、どっち?」
弟か、幼馴染みか。
そんな関係だけを基準にした、単純な選択ではないような気がした。
まおちゃんがこわい。
だけど、嘘でもまおちゃんを選ばないと、何もわからないままだ。
まおちゃんがたくさん吐いてきた嘘に比べたら、わたしの嘘なんてほんの些細なものだから。
「選べない」
「そう。じゃあ、この話は……」
「選べないけど、でも……まおちゃんを……」
まおちゃんの腕に手を置いて、服を軽く掴む。
すると、まおちゃんはわたしの肩を離して、代わりに手を握った。
どちらかを、絶対だと決めておけばよかった。
そうしたら、選ぶのは簡単だったと思う。
まおちゃんのこと、信じられなくなってた。
薫のことも、正直何を考えて、何を思っているのかわからない。
一瞬だけ、家のドアを見た。
そこに薫がいるのかはわからないけど、声には出さずに心の中で謝る。
嘘を吐いてでも、知りたいことがあるんだ。
ごめんね、薫。