きっともう好きじゃない。
守りたかった恋





立ち止まったら崩れ落ちて二度と立てなくなりそうだった。

震える足にムチを打って、止まることなくまおちゃんの家から去る。


外に出たとき、頬と顎がひんやりと冷たいことに気付いた。

手でそこに触れると、新しい一滴が瞼から落ちてきて、指先に伝う。


いつから。

まおちゃんの前でも、泣いていたのかな。


自分でも気付かなかった涙を袖で拭って自宅のドアを開ける。

玄関の壁鏡で自分の顔を見ると、全体が真っ赤に染まっていた。

目元は特にひどくて、染まっているなんて優しいものじゃない。

肌の上から赤を塗り込めたような、目を逸らしたくなる色。


薫がここで待っていなくてよかった。

部屋に戻ろうと思ったけど、リビングにはわたしの分の食事が置かれているはずだし、薫も先に食べずに待っているかもしれない。


この顔を見たら、薫はもちろん何かを察するだろうけど、お母さんとお父さんも心配する。

急いで消せるような赤みでもないから、なるべく顔を上げないようにして、横髪を頬にかける。

リビングのドアを開けると、テレビの音だけが廊下に漏れ出てきた。


「あっ、和華。おかえり」


「うん、ただいま」


声の位置から何となくお母さんがどこにいるのかはわかった。

少しでも様子が変なことを悟られないように、薫に向けて伝える。


「ちょっと、疲れたから寝るね。わたしの分はかおるが食べちゃっていいよ」


「は? 姉ちゃん」


何かを言いかけていたし、大丈夫? って言うお母さんの声も届いていたけど、ぜんぶ遮ってドアを閉める。

もう動きたがらない足を無理やりに引きずって自分の部屋に入ると一気に力が抜けて、ベッドに倒れ込んだ。


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