きっともう好きじゃない。
そっと人差し指の腹でくちびるに触れる。
手と手を重ねることや、背中をくっつけること、肩をぶつけることとはわけが違う。
不意の事故でもない、わたしにとっては突然のことだったけど、まおちゃんは情動の赴くままというよりは、意図して口付けをしたのだろうから。
悲しくはない。
だけど、嬉しくもない。
鮮烈に刻み付いたまおちゃんの熱と感触が消えない。
「姉ちゃん」
絶対にそっとしておいてはくれないと思っていたけど、思いのほか早く薫はわたしの部屋にやって来た。
閉め切ったはずのドアをノックもなしに開ける。
「かおる」
隠したって暴かれてしまうだけだ。
たったの数分で元通りになるはずもない顔を薫に向けると、少しだけ目を見張って、それからベッドの脇に座った。
「なんで眞央なんだよ」
もう何度、同じ言葉を投げかけられたかな。
わたしが薫との約束を破ってまおちゃんについて行ったことも見透かしているような目で、だけどそれを咎めはしなかった。
人の気持ちは止められない。
流れていくものだから、変化していくものだから、無理矢理に止めようと思えばできないことでもないんだけど、それには代償がいる。
たとえば、自分が傷付くこと。
もしくは、相手を傷付けること。
わたしも、まおちゃんとふたりで解決していけたらよかった。
薫のこと、巻き込んでごめんね。
わたしとまおちゃん、両方との距離が近すぎる薫にとって、今がとても苦しいことはわかってるんだ。
まおちゃんは止め方って言ったけど、逆効果でしかなかった。
加速していく。止まらずに、止まる場所も見つからずに。