きっともう好きじゃない。





『ユマちゃんが須藤くんに告白したんだって』


きっかけは、クラスメイトの話を偶然聞いてしまったこと。

告白の相手がまおちゃんでなければ、隣のクラスなのにここまで噂が広がっちゃったユマちゃんが気の毒だな、程度にしか思わなかった。


「でも、フラれたって」


「それって、和華がいるからでしょ」


他でもないまおちゃんの話が気になって、視線をそちらに向けていた。

わたしの名前が出たところで背けてしまえばよかったのだけど、バチリと目がかち合う。

慌てて逸らしたことが気に障ったらしく、わざと声のボリュームを上げた女子の3人組を遠巻きに見ていた男子たちまで騒ぎ始める。


そのうちに普段は関わることのない、悪ノリが好きな男子が数人、わたしの机の周りに集まる。

見下ろされるよりも辛かったのは、正面と左右にしゃがみ込んで下から顔を覗かれたこと。


「久野さんってさ、マオチャンと付き合ってんの?」


わたしがまおちゃんをそう呼ぶことを馬鹿にしているような言い方。

学校では気をつけていたけど、咄嗟に『まおちゃん』と呼んでしまうこともあって、それを聞かれていたんだと思う。


「付き合ってない、よ」


教室中の視線がこっちに集まってる。

さっきまでザワザワと騒がしかったのに、みんな一斉にシンとしてしまって、わたしの小さな声は四隅にまで届いた。


「じゃあなんで、告白断んの? ユマちゃん可愛いのに。久野さんも見たことあるでしょ」


なんでって、わたしに聞くようなことじゃない。

そんなの、まおちゃんしか知らないことだ。

ユマちゃんが可愛いかどうかなんて、もっと関係ない。


黙り込んでいると、机を指の爪でコツコツと叩かれる。

ずっとそれを続けられて、耳を塞ぎたくなった。


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