きっともう好きじゃない。


「和華、こっち」


前にも後ろにも進めずにいたわたしの腕を後から追ってきた友だちが引く。

ここにいない方がいいって咄嗟に判断してくれたんだと思う。

廊下の突き当たりを曲がって、階段前の壁に背中を貼り付けたとき、全身の力が抜けた。


「和華……」


背中に手を添えてくれる友だちもたぶん困惑してる。

まおちゃんとわたしが幼馴染みであることを知っている人は少なくない。

必要以上に接触しない反面、わざと避けようともしないから。

その理由を聞かれたときに、幼馴染みなのだと伝えていた。


最後の授業を残していたけど、教室に戻ろうとすると足が竦んで動けなくて、友だちを先に帰して音楽室なんかがある階のトイレに向かった。

保健室を利用するには紙面に授業担当のサインがいる。

それを持っていかないと、よほどのことでない限り門前払いを食らう。


今から教室に戻るのは絶対に無理だし、先生には上手く言っておくと別れ際に友だちが残してくれたことを思い出して、ひとりになれる場所を探した。

トイレくらいしか、誰にも見つからずに過ごせない。


個室に鍵をかけて壁に背中を凭れる。

ずっと心臓はバクバクと音を立てていて、それはまおちゃんといるときの跳ね方とは違うものだった。

緊張とも少し違うそれを抑えたいのに、深呼吸をしても瞼を伏せても変化がない。


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